歌仙「軟東風」の巻 捌 石川 葵
軟東風に地球儀くるり回しけり 石川 葵
電子メールが届く端月 清水あづさ
それぞれのこうなごの眼に海ありて 瀧村小奈生
片側町の刻はゆるやか 葵
自転車のハンドル光る十三夜 あ
かわりばんこに酸漿を吹く 奈
ウラ 接待のほうじ茶嬉し秋遍路 葵
庭の祠の謂れ説く僧 あ
新刊は愛についての覚書 奈
ボーヴォワールとサルトルが好き 葵
キスをしたカルチェラタンのカフェの椅子 あ
詐欺師の笑みに凍月の青 奈
大鍋にふつふつ煮える冬至粥 葵
「むかーしむかしあったてんがの」注① あ
弟は学芸会の小人A 奈
しっぽの先まで伸びるぶち猫 葵
花開く古木なれども匂やかに あ
温泉宿のうららピンポン 奈
ナオ 二合半の酒にほろ酔い春炬燵 葵
世に言うところ石部金吉 奈
揺れているまけずぎらいの女の瞳 あ
優しき雨に本音飲み込み 葵
不眠症職場にじわり蔓延中 奈
元気印のチャバネゴキブリ あ
十字きり祈るシスター夏深し 葵
無人の街に銃弾の痕 奈
アルバイト募集のちらし舞い降りて あ
勇んで海を越える老頭児 奈
樟脳の匂う背広に月白く 葵
大菊花展までの参道 あ
ナウ そぞろ寒蕎麦打つひとの黙々と 葵
通い始める胡弓教室 奈
形から入るタイプと指摘され あ
万能薬と記す薬袋 葵
吾が裔もアンドロイドも花の下 奈
夢にほたほた笑う山々 あ
平成29年2月10日起首
平成29年7月27日満尾 於 文音
注①
・新潟地方の方言、昔話「むかしむかしあったそうな」の意