第22回えひめ俵口全国連句大会 テレビ愛媛賞受賞

 歌仙「軟東風」の巻   捌 石川 葵

    軟東風に地球儀くるり回しけり      石川 葵
     電子メールが届く端月        清水あづさ
    それぞれのこうなごの眼に海ありて   瀧村小奈生
     片側町の刻はゆるやか            葵
    自転車のハンドル光る十三夜          あ
     かわりばんこに酸漿を吹く          奈
 ウラ 接待のほうじ茶嬉し秋遍路           葵
     庭の祠の謂れ説く僧             あ
    新刊は愛についての覚書            奈
     ボーヴォワールとサルトルが好き       葵
    キスをしたカルチェラタンのカフェの椅子    あ
     詐欺師の笑みに凍月の青           奈
    大鍋にふつふつ煮える冬至粥          葵
     「むかーしむかしあったてんがの」(注1)   あ
    弟は学芸会の小人A              奈
     しっぽの先まで伸びるぶち猫         葵
    花開く古木なれども匂やかに          あ
     温泉宿のうららピンポン           奈



 ナオ 二合半の酒にほろ酔い春炬燵          葵
     世に言うところ石部金吉           奈
    揺れているまけずぎらいの女の瞳        あ
     優しき雨に本音飲み込み           葵
    不眠症職場にじわり蔓延中           奈
     元気印のチャバネゴキブリ          あ
    十字きり祈るシスター夏深し          葵
     無人の街に銃弾の痕             奈
    アルバイト募集のちらし舞い降りて       あ
     勇んで海を越える老頭児           奈
    樟脳の匂う背広に月白く            葵
     大菊花展までの参道             あ
 ナウ そぞろ寒蕎麦打つひとの黙々と         葵
     通い始める胡弓教室             奈
    形から入るタイプと指摘され          あ
     万能薬と記す薬袋              葵
    吾が裔もアンドロイドも花の下         奈
     夢にほたほた笑う山々            あ

平成29年2月10日起首
平成29年7月27日満尾 於 文音

(注1) 新潟地方の方言、昔話「むかしむかしあったそうな」の意