国民文化祭2009 しずおか

☆静岡県実行委員会会長賞
   半歌仙「やさしき貌」の巻   城 依子捌 
 水打つや街はやさしき貌となる     城依子
  小さな虹の生れる道端      密田 妖子
 少年はおとぎの国の夢を見て   岡部七兵衛
  植物図鑑開く文机         浅沼 小葦
 隣人の月愛でる声歌う声       齋藤 桂
  鰯大漁地引き網引く            依子
色葉散り気分はいつも山頭火       妖子
  青い空には流れ行く雲        七兵衛
 貝殻の指輪をそっと手渡され       小葦
  はじめて歩幅合わすときめき       桂
 鬼女となる君への思い強すぎて     依子
  泣いて笑って南無阿弥陀仏       妖子
 雪月夜宇宙広大俺一人         七兵衛
  森の奥からオオカミの声        小葦
 もめにもめかんぽの宿は売れぬまま    桂
  電動自転車坂をすいすい        妖子
 花だより届けば疼く旅心          小葦
  シャンパンの栓飛んで春宵      七兵衛
        2008年7月16日起首 同年8月10日満尾 
☆ 静岡県議会議長賞
   半歌仙「忽ちに」の巻   田岡 弘 捌
 
 忽ちに風の中なる牡丹かな      田岡 弘
  静寂を破る夏の鶯           城 依子
 デッサンは思ひのままに伸びやかに    弘
  背なになじみしリビングの椅子       子
 皓々と湖を照らして望の月          弘
  音も立てずに穴に入る蛇          子
木の実降る道はいつしか行き止り      弘
  恥ぢらひながら交はすくちづけ       弘
 夢うつつうすむらさきの閨の内        子
  踏み損なつてしまふブレーキ        弘
 アメリカに端を発した株下落         子
  酒の力で憂さを晴らさん          弘
 寒念仏月の明りに過ぎ去りて        子
  犬がとぼとぼ底冷えの街         子
 友を待つことにも慣れてティールーム   弘
  スローライフもいつか身につき       子
 霊峰の富士を遥かに花の雲         弘
  茶摘の唄の流れ来る午後         子
    平成二十年五月十八日起首 同七月十四日満尾
☆入選
  半歌仙「過ぎ去りし」の巻     田岡 弘 捌
 
 過ぎ去りしものに靡ける芒かな   田岡  弘
  背なに負ひたる十六夜の月    西岡 恭平
 新走り友の笑顔の嬉しくて           弘
   粋な小唄でこれが引けどき         平
 ゆつたりと風にまかせて鯉幟          弘
  アカシア並木香る故郷            平
 ローカルな電車のよぎる町はづれ      弘
   愁ひを秘めし妙齢のひと          弘
  衣々の別れをせかす明け鴉         平
   この世のことはみんな泡沫        弘
  深まりし金融危機を如何にせん      平
   六十億は乗れぬ方舟            平
  月冴えて小夜の中山夜泣石         弘
   蟷螂枯れて身じろぎもせず         平
  和やかに話の弾むダイニング        弘
   神の啓示と宝くじ買ふ           平
  未来への夢をちりばめ花筏          弘
    空の青さに駈ける若駒          平
 ☆入選
   半歌仙「森の道」の巻     岡部七兵衛 捌

 さえずりやどこまで続く森の道  岡部七兵衛
  雪割草の揺れる岩陰       澤藤 蓑助
 大凧に子の命名を揮毫して   小山百合子
  端切れ集めて作る巾着     棚町 未悠
 満月の覗いておりし飾り窓      城  依子
   街いっぱいに香る木犀        七兵衛
登高の半ばに膝の笑い出す        蓑助
   小さき祠にはずむ賽銭        百合子
  恋に泣く文楽人形黄八丈        未悠
   太宰のように死ぬもまた良し     依子
  居酒屋のいつもの椅子でひとり酒  七兵衛
   刑事張込むワゴン車の中        蓑助
  貝風鈴有明の風捉えたる       百合子
   正覚坊は海へ向かいて        未悠
  みんなみの島に幸あること信じ     依子
   週に三回習うウクレレ         百合子
  舞姿みなしなやかに花の下       蓑助
    山裾遠くかぎろえる村         未悠
       2009年2月10日起首 同年3月6日満尾
☆入選
 半歌仙「蜘蛛の糸」の巻      岡部七兵衛 捌

  蜘蛛の糸一筋垂れる仁王門    岡部七兵衛
  夏の終わりを告げる白雲       浅沼小葦
 あざやかなパントマイムに輪ができて 城 依子
  ワッフルを売る髭のおじさん       齋藤 桂
 路地に住む野良猫たちも月の客   密田妖子
  新酒入荷のでかい張り紙        七兵衛
団栗を拾って帰る九十九折         小葦
   おなご先生笑みを絶やさず         依子
 縁談の持ち込まれたる良い日柄        桂
   風もないのにゆらり揺り椅子       妖子
 山の端に突然黒く立つ煙         七兵衛
  ダカールラリー駆ける四輪         小葦
 ボーナスを全部はたいてライカ買い     依子
  寒さ忘れて仰ぐ満月              桂
 墓石も混じる石垣城の跡           妖子
  ピアニッシモの川のささやき        小葦
 花筵ままごとの子等楽しげに        依子 
   窓開け放つうららかな午後         桂
     2008年8月4日起首 同年9月11日満尾
☆入選
 半歌仙「命 終」の巻     森本多衣 捌
     
日めくりと競ふ命や山笑ふ     森本 多衣
  生まれ変りは胡蝶など良し    鈴木  漠
白梅は見頃紅梅如何ならん    在間 洋子
  手招きをしてどうぞ隣人      山名  才
天瓜粉つけた子を連れ月の浜    松本 昌子
  上布の裾を潮に濡らして      香山 雅代
黄楊の櫛飾り乙女の髪ひかる   森本 善信
  懺悔堂出てまづメーキャップ   安丸てつじ
 ジェラシーの炎自ら鎮めつつ    三神あすか
  残る蛍もやがて消え行き        洋子
 半円を有明月は傾げをり          漠
  銀杏散りゆく薄闇の中          多衣
 渓づたひ三叉路に坐す道祖神     雅代
  褞袍着た客庭下駄を履き        昌子
 店先の初氷には怖怖(こはごは)と    才
  とんがり屋根をとんび旋回       あすか
 間延びして谺の還る花の午後     てつじ
  鉄の鎖の軋るぶらんこ          執筆
 2009年2月17日起首 同年3月2日満尾
  
☆入選
 半歌仙「除夜の鐘」の巻   岡部七兵衛 捌

 除夜の鐘かすかに動く猫の髭  岡部七兵衛
  小半時ほど舞いし初雪     八尾暁吉女
 公園で子等は元気に遊ぶらん    城依子
  アップルパイは母の手作り     齋藤 桂
 北へ行くフェリーに乗って月の客    暁吉女
   すでに粧う四方の山々       七兵衛
赤とんぼ分校跡に群なして         桂
  思い出はみな美しきもの         依子
 さまざまな恋を重ねた老女優      暁吉女
  ご酒が入ればいつも都々逸       桂
 草庵の前にひろがる隅田川     七兵衛
  小さき祠にお供えの山        暁吉女
 月仰ぐナイター熱く熱く燃え        依子
   ラムネ片手にかけるケータイ      桂
 電車内盲導犬は紳士なり       暁吉女
  夢のふくらむ旅立ちの朝       七兵衛
 花爛漫宗祇の墓のひっそりと        依子
  どこからとなく小綬鶏の声         桂
     2008年12月17日起首 2009年1月16日満尾
☆入選
 半歌仙「ガラスの迷路」        膝送り

 早春やガラスの迷路抜けられず  三宅節子
  約束の地にかかる初虹       佛渕雀羅
 田螺鳴く良きパン種を眠らせて    由川 慶子
  キッチンの窓南に開け        稲垣渥子
 まろうどのてづまに消える月の影       羅
  動き出す虎檻のやや寒           節
静まりしキトラ古墳に木の実落つ      渥
  美大生抱く丹の色の壷           慶
 過去未来飛翔するもの捕らえむと      節
  恋より疾きカルメンの死は          羅
 冬月に彼の鎖骨は痛まぬか         慶
  年末派遣村の味噌汁            渥
 ポケットにほつれる芭蕉七部集       羅
  ハーレー駆って長き探索            節
 島浮かぶ海に花火のどよめける        渥
  どこでもドアをパッと押し開け        慶
 飛行士に届けに行かむ山すみれ      節
  魔法瓶よりそそぐ陽炎           羅
成二十一年二月二十七日起首同年三月二十七日満尾
☆入選
半歌仙「真菰の芽」の巻     小山百合子 捌

 こめかみに風の重たし真菰の芽  小山百合子
  子と連れ立ちて蝶の舞う土手   岡部七兵衛
 卒業期オープンカフェの賑わいて     城依子
  埠頭離れる豪華客船         藤澤蓑助
 月今宵夢でふくらむ旅鞄        棚町未悠
  卓の榠櫨の香り深まる          百合子
 祭文に野次の飛びたる牛祭      百合子
  少し鼻緒のきつき駒下駄         依子
 ご新造の傘のしずくに肩ぬらし       蓑助
  格差婚とて話題ふりまく          未悠
 キャラバンの隊列消ゆる砂嵐      百合子
  歴史を秘めて眠る楼蘭         七兵衛
 汗拭いひたすら絵筆運ぶ人         依子
  焼酎すする窓に残月            蓑助
 やすやすと個人情報流失し         依子
  籠のオウムはおしゃべりが好き     百合子
 闇に浮くライトアップの花の滝       七兵衛
  宗祇偲びつ仰ぐ春嶺            依子
 2009年3月10日起首 同年4月17日満尾
☆入選
 半歌仙「坂の町」の巻       城依子 捌

 春灯の淡くこぼるる坂の町        城依子
  枝垂れ柳を見下ろせる月    八尾暁吉女
 桜鯛発止と出刃を打ち込みて  岡部七兵衛
  潮焼けの顔逞しき腕          齋藤桂
 フィールドへ研究室はいつも留守   暁吉女
  ストーブは消え灰が白々         依子
裾野から仰ぐ雪嶺凛々しかり        桂
   少女の夢を乗せる浮き雲      七兵衛
 婚礼の衣装をまとい馬車に乗る      依子
  文化の壁を愛の高飛び        暁吉女
 救援の物資届けるNPO        七兵衛
  笑顔で開くメールボックス          桂
 大杯に映る玉兎と遊ぶ宵        七兵衛
  殿様ばった泰然として         暁吉女
 御命講善男善女ぞろぞろと         依子
  太鼓の音に揺れる池の面       暁吉女
 名木の樹齢いかほど花篝          桂
  ビュフェの版画に出会う麗日     七兵衛
      2009年2月19日起首  同年3月16日満尾
☆入選
 半歌仙「風生まれ」の巻   棚町未悠 捌

 風生まれ薄の海に溺れけり    棚町未悠
  国境あたり浮かぶ十六夜    渡部葉月
 ミュージカル芸術祭賞狙ふらん  中林あや
  白黒縞の帽子ななめに         悠
 止まっては遠のいて行く乳母車     葉
  きびきびとして馬洗ふ影         や
 山小屋に怪談話きりもなし        悠
   物音途絶え外の静かさ         葉
  流し目の練習してる姫鏡         や
   スリムなズボン合鍵をもち       悠
  アレルギーあちらを掻けばこちらまで  葉
   しっぽを探すすっぽんの鍋       や
  寒月光五百羅漢の笑みこぼれ     悠
   シルクロードの取材班らし       葉
  愛用のカメラ記念の傷があり      や
   競り市に出す大名の雛         悠
  ほんのりと酔ふて艶やか花衣      葉
   町騒うすれ夕べうららか          や
    2008年12月16日起首 2009年1月10日満尾
☆入選
 半歌仙「命なり」       森本 多衣捌

 花一樹燃えて全山命なり    森本 多衣
  畑に縺るる初蝶の影      森本 善信
 朝飯は若布の香立つ嬉しさに  松本 昌子
  肺活量の大いなるまま      鈴木  漠
 図書館へ運動兼ねる坂の道  安丸てつじ
  草刈鎌は月光に濡れ      三神あすか
風鈴の音に誘はれて夢に入る 在間 洋子
  たをやめ萎る庵の枝折戸   香山 雅代
 恋多く生きしとか聞く舞ひ姿   山名   才
  カメラに収む白鳥の群れ       昌子
 蔦枯れてむしろ明るむ我がこころ   善信
  幸も不幸も己が身の内         多衣
 獺祭忌なれば句帳を懐中に     あすか
  臨死体験秋の夜長は        てつじ
 嗜めば酒は良薬月見酒        洋子
  遠回りして帰る面々            才
 チェーホフの桜の園の再演に       漠
  名優偲ぶ陽炎のなか         雅代
2009年3月17日起首 同年3月31日満尾
☆入選
 半歌仙「野も山も」の巻     岡部七兵衛 捌

 野も山も龍田の姫の衣の音    岡部七兵衛
   端然と座す月の正客        城 依子
 菊作りベテラン同士楽しげに   八尾暁吉女
  側にひょこひょこ機嫌よき鳩    齋藤桂
 校庭の銅像天を仰ぐらん        依子
  涼風うけてラジオ体操        七兵衛
真っ白なショートパンツの眩しくて      桂
  思われ面皰つぶさずにおく     暁吉女
 神田川沿いの下宿が愛の巣に      依子
  朝日に映えるカーテンの襞        桂
 六両目始発電車に乗り込んで    暁吉女
  飲めや騒げと団体の客       七兵衛
 肩書にしがみついてる部長補佐     依子
  尻尾丸めて黒き灰猫         暁吉女
 月冴えて庫裏の煙のくっきりと       桂
  写真を添えてブログ更新        依子
 満開の花の名所を姉妹        暁吉女
  茶店の棚に並ぶ草餅           桂
      2008年8月22日起首 同年9月11日満尾
☆入選
 半歌仙「ざわめきも」の巻    齋藤 桂 捌

 ざわめきも楽しげなるや竹の春    齋藤桂
  月の明るき湖近き里       八尾暁吉女
 風炉名残髪をきりりと結い上げて   城依子
  父の好みし床の掛け軸     岡部七兵衛
 跡継ぎは蔵を改造ギャラリーに    暁吉女
  夏の燕がすいと横切る           桂
 そよ風にひと息いれる登山道    七兵衛
   携帯電話OFFにしたまま       依子
 いつの間に恋のかけひき覚えたの    桂
  八百屋お七がいればライバル   暁吉女
 スコッチを手に繙きし草双紙      依子
  棚いっぱいに模型機関車      七兵衛
 締め切りの迫る事務所は戦場に   暁吉女
  師走の男ねじり鉢巻            桂
 雪月夜潮の香とどく二の鳥居     七兵衛
  文化遺産をめぐる長旅        暁吉女
 花吹雪ボーイスカウト整列す      依子
  夢といっしょに揚げる大凧      七兵衛
      2008年9月16日起首 同年10月3日満尾
☆入選
半歌仙「蒼穹や」の巻       棚町未悠 捌

 蒼穹や囀りひびく尾瀬ヶ原      棚町未悠
  木道沿ひの水温む頃        渡部葉月
 シャボン玉作りに飽かぬ兄がゐて  菅原紀彦
  鍔の大きな帽子誂へ             悠
 月今宵真打披露口上に           葉
  タッチパネルで休む蟷螂          彦
 紅葉舟ゆるゆる進む山の影        悠
   青春十八切符愛用            葉
  僕だけに微笑む巫女とすれ違ふ     彦
    初の密会揺れるブローチ        悠
 風薫り*「熱狂の日」てふ音楽祭     葉
   屋根へ登れば月の涼しく        彦
 喪の旅に静かに地酒酌み交はす     悠
   年の瀬せまるヴァチカンの列      葉
 ジャケットの裏ポケットに札束が      彦
  裁判員の知らせ届きて          悠
 花の房蜜吸ふ鳥の戯れる         葉
  ネットゲームに勝ちし永日        彦
       2009年3月16日起首 同年4月20日満尾
 *数年前からフランスのナントと東京で、毎年テーマを
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