☆連句協会会長賞 歌仙「土壁へ」の巻 京都府 齋藤 桂捌 土壁へ日はまっすぐに犬ふぐり 齋藤 桂 初音きかせる二羽の鶯 八尾暁吉女 春愉し夢は大きくふくらみて 岡部七兵衛 やっと見つけたぴったりの靴 依子 珍しき顔もまじりて観月会 暁 実る瓢箪めでる異国語 桂 ウ 振り向かず迷わず蛇は穴に入る 依 色即是空座禅組む朝 衛 缶詰の社員研修あと少し 桂 メールアドレスちゃっかりと聞く 暁 猫を抱く彼女は魔女といううわさ 衛 古城に巣くう愛の亡霊 依 月高くわが影とゆく肝だめし 桂 暑中休暇は七半の旅 暁 橋下の鳴門海峡渦を巻き 依 政財界につづく激震 衛 花明り父祖よりの地を守り継ぎ 依 お伊勢参りを楽しみにして 暁 ナオ ゆったりとふらここ揺れる昼下 衛 全快祝い終えて安らぐ 桂 アドバイス禁酒禁煙禁ゲーム 暁 引越荷物とどく新宅 桂 雪の夜傍にあなたが居てほしい 衛 動悸はげしき毛衣の裡 依 恐いより抑えきれない好奇心 暁 棚に並んだウォツカテキーラ 桂 濃く低く流れるチェロはヨーヨーマ 衛 何時の間にやら嬰はぐっすり 依 清らかな月の光を身にまとい 衛 古道呑み込む秋の連山 桂 ナウ ものを焼く煙刈田にたなびいて 依 美味しいパン屋兄弟の店 暁 晴天につられ出かける隣町 桂 碑探し地図を片手に 依 透垣の上に聳える花大樹 暁 世界の平和祈り連凧 衛 2007年2月19日起首 3月28日満尾 |
☆第22回国民文化祭徳島市実行委員会奨励賞 歌仙「秋立つや」の巻 東京都 岡部七兵衛捌 秋立つや風と渦との交響詩 岡部七兵衛 潮の香りの満つる有明 城 依子 新絹を絞る手際の鮮やかに 多村 遼 画紙を飛び出す嬰のクレヨン 澤藤蓑助 ペーチカがとろとろスープことことと 依子 麓の村に橇の鈴の音 七兵衛 ウ 木の屑の中からこけし抱き上げて 蓑助 いつかはノラになると知りつつ 遼 愛されるふりをつづける日記帳 七兵衛 屋根裏部屋は夢幻空間 依子 おしゃべりな九官鳥は籠を抜け 遼 大峰に入る老いし修験者 依子 月涼し剃り落としたる長き髯 蓑助 退院祝い友とシャンパン 七兵衛 あちこちに出湯の煙り漂いて 依子 駅の広場にひるがえる旗 七兵衛 外つ国の花にふるさと偲ばるる 遼 殿様蛙こんなところに 依子 ナオ 春日和大臣の椅子心地よく 七兵衛 錬金術師そっと目配せ 遼 ネジ巻かれ踊るブリキの玩具達 依子 神社の裏に子供らの基地 七兵衛 三つ編みの転校生が来るらしい 遼 めぐり合うことこそが運命 依子 時雨降る数寄屋橋には占い者 七兵衛 ため息白く不景気の底 遼 登り窯しんと火入れを待っており 依子 祖父に教わる秘伝数々 七兵衛 吟声はやがて月へと届くらん 遼 菊人形がふっと微笑む 依子 ナウ 店番の猫の尻尾のそぞろ寒 七兵衛 数学よりも哲学が好き 遼 果てしないメビウスの帯たどる旅 七兵衛 乞食袋に句帖一冊 蓑助 乾坤に曇りはあらず花万朶 依子 いのち育む日差しあたたか 遼 2006年8月8日起首 9月28日満尾 |
☆入選 歌仙「背負はれて」の巻 岩手県 小山百合子捌 背負はれて太鼓の通る深雪かな 小山百合子 ふくら雀の宿る軒先 城 依子 百号の画布に絵筆を走らせて 岡部七兵衛 幾何が得意な新入りの弟子 澤藤 蓑助 乾杯の音頭に月の上るらん 依子 萩がこぼれる庭の四阿 百合子 ウ 進むありためらふありて赤とんぼ 蓑助 ポニーテイルの小悪魔が行く 七兵衛 戯れの恋と知りつつ身を焦がし 百合子 踏み外したる宮の磴 依子 この地球ミシと壊れる音がする 七兵衛 水を求めて象の大群 蓑助 少年は野営の支度粛々と 依子 月影映すサイダーの泡 百合子 ふるさとの柱時計のねぢを巻き 蓑助 継ぐと決めたる伝統の店 七兵衛 阿波藍の甕匂ひ立つ花の雨 百合子 舟漕ぐ人の唄がのどかに 依子 ナオ 朝食は二匹の目刺お味噌汁 七兵衛 地下の金庫にうなる現ナマ 蓑助 ゴシップに群がってくるパパラッチ 依子 読書専心眼鏡特製 百合子 天井に染みと化したる冬の蠅 蓑助 老師のくさめ響く僧房 七兵衛 かたかたと絡繰り人形茶を運ぶ 百合子 腕組みあひて覗く時代屋 依子 幸せに胸膨らます初デート 七兵衛 壁画の美女は化粧直しに 蓑助 漂泊の旅の果てなる月今宵 依子 わだつみ深く落鯛の夢 百合子 ナウ 指定席横に南瓜が並びをり 蓑助 何度やつても解けぬ知恵の輪 七兵衛 押し寄せていま終章に入るボレロ 百合子 イナバウアーは演技最高の出来 依子 花見馬車ゆらりと子らを零しさう 七兵衛 綿菓子のごと春の浮雲 執筆 2006年12月9日起首 3月18日満尾 |
☆入選 歌仙「冬銀河」の巻 東京都 岡部七兵衛捌 轟ける鳴門の海や冬銀河 岡部七兵衛 寒を楽しむ父と子の笛 齋藤 桂 エッセイを折にふれては書き溜めて八尾暁吉女 心豊かにコーヒーを挽く 城 依子 卓上に観月会の招待状 桂 ころりころころ大まつぼっくり 衛 ウ 蜻蛉飛ぶ小道たどれば比丘尼塚 依 湯治の里で万屋を継ぐ 暁 ゆで卵ふたりで分ける新所帯 衛 幼馴染みはちゃん付けで呼ぶ 桂 本箱の隅にちょこんとスヌーピー 暁 ガードの下にも人生のあり 依 きりもない憲法論議月暑し 衛 似合うと言われ藍の甚平 桂 箒目の殊に清しき石の庭 依 数羽の鳥の遊ぶひととき 暁 酔うほどにに花の奥へと迷い込む 桂 耳をくすぐる春風の歌 衛 ナオ いたずらなニンフの揺らす半仙戯 暁 ベッドの中で嬰はぐっすり 依 夢託し小さき布靴作り上げ 桂 飢餓に苦しむ難民の村 衛 神在す遠嶺うっすら雪化粧 依 素麺を干す美しき顔 暁 突然に炎のごとき恋に落ち 衛 勢いづいた株価大跳ね 桂 ブログなどちょちょいのちょいの喜寿白寿 暁 仲間を募りシルクロードへ 桂 月天心しんと鎮もる遺跡群 依 なよと靡ける薄ひとむら 衛 ナウ 肌寒く漱石猫をふところに 依 歯科の予約はあさっての午後 暁 赤青のしるしけのカレンダー 衛 ピエロくるりと動き軽やか 桂 声かけて行きかう遍路花の坂 暁 過去も未来も陽炎の中 依 2007年1月15日起首 2月17日満尾 |
☆入選 歌仙「遠き世の」の巻 茨城県 城 依子捌 遠き世の色しみじみと蓮咲けり 城 依子 蝉時雨ふる城址公園 八尾暁吉女 誘われてヨガ教室を試すらん 多村 遼 一歩踏み出す新しい靴 齋藤 桂 少年の夢ふくらみて月さやか 岡部七兵衛 秋の真っ直中をSL 依 ウ 小鳥来てツバメは帰る阿波の国 女 尼僧の偲ぶ出奔の過去 遼 胸底の燠の欠片を愛おしみ 桂 トワイライトに低くボサノバ 衛 シャンパンの泡がはじけたがっている 依 新築祝い長い挨拶 女 寒月を指すご自慢の髭を撫で 遼 凍滝を背に眠りたる村 桂 ゆっくりと柱時計の螺子を巻く 衛 あるかもしれぬ日本沈没 依 花盛り開きしままの山家集 女 若駒を馳せ風をつかまん 遼 |
ナオ クレープ屋手持ち無沙汰な目借時 桂 耳鼻ピアス赤いバンダナ 衛 平静をぐるぐる回す洗濯機 依 宇宙船より届く暗号 女 冥王星ひとりぼっちは寂しかろ 遼 祭囃子を病窓に聞く 桂 蜜豆と喧嘩の好きな神田っ娘 衛 セレブ婚などぽいと蹴飛ばし 依 ポスターの立て看板が転がりて 女 総裁候補似たり寄ったり 遼 石庭に佇みて待つ小望月 桂 そこはかとなく匂う白菊 衛 ナウ うそ寒き遺影の前の旅鞄 依 寅さんフアン今だ根強く 女 ぶうらりと行く人情の残る里 遼 凪の入江に舫う舟影 桂 千年の花ふりしきる神の庭 衛 何やらゆかし和紙の春灯 女 2006年7月19日起首 10月3日満尾 |