国民文化祭2006やまぐち

☆実行委員会会長賞
半歌仙 「秋嶺の」の巻 三重県 多村 遼 捌

   秋嶺のはじまるところ無人駅   多村  遼
      おとぎ話のやうな初月   城   依子
   じっくりと渋皮付きの栗を煮て 山寺たつみ
     耳傾けるピアノエチュード 佐藤ふさ子
   横文字の看板多きビル街に   齋藤  桂
     塵をしづめて散水車ゆく       遼
 ゥ 夾竹桃いくさの記憶まざまざと     依
     尼僧の胸にゆれる十字架      み
   異国での恋はたやすく燃えるもの    ふ
     夢追ひかけて迷ふ城跡        桂
   不意打ちのごとく飛び立つ大鴉     依
     降圧剤を処方する医師       み
   月冴えてトリノをめざすアスリート    ふ
     朽野を縫ふ道はどこまで      桂
   龍頭巻く父の遺愛の腕時計      遼
     篭の仔猫はうつらうつらと     依
   おいでませ花いっぱいの周防の宿  桂
     天地蒼々風光る沖          み

    平成17年10月23日起首 11月21日満尾
    
☆ 入選
半歌仙 「万葉仮名」の巻  京都府  齋藤 桂 捌
   
  鹿鳴くや万葉仮名の道しるべ     齋藤  桂
     庭下駄の音軽き待宵        城  依子
 投げ入れの木通の蔓を切りつめて   山寺たつみ
     鑿跡残る手作りの卓        佐藤ふさ子
   和やかなクラブハウスのチェス仲間  多村 遼
   羽子板市へ誘われており            桂
ゥ  明烏寒波を連れてやってくる           依
     もしやの予感浮かぶ面影          み
   怖いほど君の想いのまっしぐら         ふ
     バンジージャンプ達人の域          遼
   見はるかす海はコバルトブルーにて      依
     外輪船の煙たなびく             ふ
   巴里祭の月に歌声とどくらん          遼
     酒をなみなみカットグラスに          桂
   懐かしい一別来のこの小部屋          み
     すり寄ってくる留守番の猫          依
   落慶の稚児行列は花を浴び          ふ
     周防の老舗応えのどらか           み

    平成17年9月17日起首~10月15日満尾
☆ 入選
半歌仙 「ドロップに」の巻 岩手県 小山百合子捌

   ドロップに日差の透る木の芽時 小山百合子
     つばくらめ来るアトリエの軒 中本 七水
   丹念に春挽糸を括るらん     城   依子
     取りし湯呑に揺れる茶柱    百合子
   久闊の友と眺める海の月       七水 
     べったら市に誘われており    依子
 ゥ 秋深き机の上に福音書      百合子
     鞄の底で着信の曲        七水
   国境へ向けてひたすら馬を駆る  依子
     いざロシナンテ姫を助けに  百合子
   芸一途おしどり夫婦人気出て   七水
     父の遺影がふっと微笑む    依子
   月に濡れ大きく育つ巴旦杏    百合子
     きもだめしには竹刀片手に   七水
   酔うほどに自慢話のきりもなし   依子
     壁に並んだ汽車のプレート   百合子
   城山のそよ風に花さんざめく   依子
     遠足の子が通る組橋     七水
       平成18年3月2日起首 同31日満尾
☆ 入選
半歌仙 「蔓草の」の巻   茨城県  城 依子 捌

   蔓草の籠にならんと枯れており   城   依子
     身を切る風に鎮もれる城     岡部七兵衛
   石窯で自慢のパンを焼き上げて   山根  敬子
     笑みうつくしきグラビアの子等   多村  遼
   虫の音にあわせゆらゆら月見舟        衛
     後の袷は仕立て下ろしで          依
 ゥ 萩盛る町に松陰門下生             遼
     差出人のなくて恋文             敬
   まどろみの中の逢瀬に縋るらん        依
     合わせ鏡に薄明の獏            遼
   G線の切れたヴィオロン壁際に        衛
     ジプシー達の宴もたけなわ         敬
   果てしなき熱砂の月を友として        遼
     破れ団扇につのる望郷          衛
   人生の耐震強度想定外            依
     姿勢崩さぬ托鉢の僧            衛
   花の香にフランス窓を開け放ち        敬
     オウムと語るほろ酔いの春        遼
    平成18年1月14日起首2月19日満尾
☆ 入選
半歌仙  「漂泊の雲」の巻   茨城県 城 依子 捌
 
  漂泊の雲の白さや寒明ける      城   依子
     遠会釈して麦を踏む人        小山百合子
   初雛を広い座敷に飾るらん       中本 七水
     知らず知らずのうちにハミング         依
   水馴竿させば玉兎の影ゆらぐ            百
     秋を惜しみて続く献杯              七
 ゥ 粛々と時代祭りの主役たち             依
     べっこう飴に透ける御神馬            百
   Gパンのお臍ちらりと可愛ゆくて          七
     胸ときめかす髭のおじさん           依
   公開の講座はアンナ・カレーニナ         百
     青葉若葉の匂い立つ頃             依
   月涼し風ふところに露天風呂           七
     錦帯橋を越えるニーハオ            百
   禅僧の取り持つ縁で姉妹都市          七
     鵞鳥の卵孵化が始まる             百
   皇室の慶事に花の咲き揃い            依
     仰ぐ高嶺に架かる初虹             七
          平成18年2月12日起首3月1日満尾
☆ 入選
半歌仙  「春疾風」の巻  東京都  岡部七兵衛捌
 
  志われも晋作春疾風         岡部七兵衛
     鏑矢のごと来るつばくろ       淀川しじみ
   瓶に挿す勿忘草が咲き出して    小山百合子
     好きな詩集をひとり繙く       城   依子
   牧童の笛につられて昇る月      多村  遼 
     えっちらおっちら蟷螂の影         しじみ
 ゥ 今年米神に供えて安らぎし           依子
     エステサロンは予約満杯        百合子
   お手軽な恋をレンタルする女           遼
     別れの夜に燃やす残り火        七兵衛
   心得の猫の寝場所はサモワール      じじみ
     パッチワークの躾糸引く         百合子
   月待てばことに涼しき波の音          依子
     戦を語る翁の泡盛               遼
   配水車砂埃たつ基地の街          しじみ
     自分探しの旅を続ける           依子
   花びらを纏って潜る大手門          百合子
     奴さんらし蒼天の凧              遼
      平成18年3月10日起首3月30日満尾
半歌仙  「捨雛」の巻     長野県 山寺たつみ 捌
  
   捨雛や女人の旅の幾山河       山寺たつみ
     童の唄に光る芽柳          新生 逢人
   万愚節眉唾電話期待して       駒村 安雄 
     資料の上の猫を追ひ出す      樋田 利彦
   月に酌む肴は友の帰国譚             人
     評価分かれる菊の掛軸            雄 
 ゥ 倒産の旧家売立て秋の末             み
     小町娘が眠るホスピス             人
   燃えあがる一途な想ひ抑へかね          雄
     また持ち帰る渡せない文            み
   聖堂のステンドグラス鮮やかに          人
     錦帯橋に基地の憂鬱             雄
   夕立も過ぎて蛇の目を斜に持ち          み
     蟾にも遭ひし月の縁台             雄
   名物の団子楽しむ老夫婦             人
     尼僧のお茶に心安らぐ             雄
   花の下笑はせながら啖呵売            み
     蝶戯れる国宝の城               雄
                     平成18年3月15日首尾
半歌仙 「一本の縄」の巻 岩手県  小山百合子 捌

   一本の縄の垂れたる寒さかな     小山百合子
     藁編む土間にこもる雪の香    淀川 しじみ
   せせらぎのひそかな唄に耳かして    岡部七兵衛
     探鳥会は磁石頼りに        多村   遼
   名園の白砂鎮もり月今宵       城   依子
     待ちに待ちたる新酒到来     雨乞  小町
 ゥ ボランティア人形劇に木の実降る      しじみ
     ペットの仔豚リボン結んで         百合子
   逞しき胸で可愛くなる女              遼
     夢の中まで歓喜天立つ          七兵衛
   ライブドア株で儲けた絶頂期           小町
     後生大事に蛇の抜け殻           依子
   月の背戸水鉄砲が落ちてゐる        百合子
     てるてる坊主軒にゆらゆら         しじみ
   ふるさとへ思ひ果てなき草枕         七兵衛
     汽笛を曳きて走るSL              遼
   宇野千代の笑顔を偲ぶ花衣          依子
     城山映し春田かがやく           執筆
                平成18年2月7日~3月10日首尾