国民文化祭2011 京都

*京都府実行委員会会長賞
 両吟歌仙「春の土」の巻
  さくさくと掘れば応へる春の土 上田真而子
 沓脱ぎ石に眠る猫の仔       齋藤  桂
鄙の駅発車のベルののどらかに     而
 飴玉ひとつ貰ふしあはせ        桂
おはなしのクライマックス月が出る    而
 夜風にそよぐコスモスの影       桂
 せめてもとけふは坐禅の道元忌   而
   古書市あれば西へ東へ        桂
  セーヌ川果てはイギリス海峡と     而
   指折りかぞへ待ちし再会        桂
  添へ乳して眠りほうける幼妻      而
   パンダの写真壁にいくつも      桂
  半夏生片白草と又の名を        而
   月は涼しげ神山の上         桂
  アリヤーと蹴鞠の声の貴やかに     而
   タイムトラベル異次元へ飛び     桂
  花吹雪わが散り際はいかならむ     而
   どこに居るのかあれは小綬鶏     桂 
ナオ 届きたる都をどりの招待状      桂
   座敷わらしも数のうちなり       而
  酔ふほどに調子のあがる郷訛     桂
   鳥打帽が妙に似合ふよ        而
  車椅子散歩の途中日向ぼこ      桂
   抱へるほどの冬至南京        而
  従兄弟煮の語源しらべる広辞苑    桂
   万葉仮字で恋は孤悲とか       而
  燃えるよな想ひ隠せずピアス揺れ   桂
   あはれ瓦礫と化せし愛の巣      而
  月今宵祈る人影そこここに        桂
   風炉名残とて招く会友          而
ナウ たまさかに木の実降る音興をそへ   桂
   いつか来た径いや既視感か      而
  パテシエも顔馴染みなり洒落た店    桂
   傘寿の母はツイッター好き       而
  船頭と掛合ひ漫才花見舟        桂
   青墨淡く霞む遠景             而
 起首 2011/2/26 満尾 2011/3/25  於文音   
*京都府連句協会会長賞
  歌仙「蛍」の巻    岡部七兵衛捌
 闇にきて闇に消えたる蛍かな   岡部七兵衛
  せせらぎの音乗せて涼風     根本美茄子
 閑静な茶房の隅に憩うらん    伊都のヒミコ
  世間話をあれやこれやと       桜井吉野
 ナナハンで月の名所へひた走る     城依子
  たわわに実る坂道の柿       七兵衛
斑鳩に高々響く百舌の声       美茄子
  厨子の形のストラップ買う   ヒミコ
 しなやかに匂う黒髪なびかせて    吉野
  女が魔女に変わる瞬間        依子
 どろどろとダリの時計の溶ける音   七兵衛
  床に転がるバーボンの瓶      美茄子
 寒苦鳥いつの間にやら背後より    ヒミコ
  着膨れて見る月の細さよ       吉野
 宮参りすみて嬰児はぐっすりと      依子
  稜線緩く故郷の山     美茄子
 勇壮に黒田節舞う花の宴    ヒミコ
  栄転の友祝う麗日     吉野
ナオ 畑を打つ地球の鼓動たしかめつ   依子
   戦い過ぎて荒れ果てた村    七兵衛
 ダム造り賛否両論せめぎ合い    美茄子
  いわくありげな通夜の客人   ヒミコ
 すれ違う香水の香を振り返り   吉野
 恋うて焦がれて蛇身くねらす   依子
 手拍子にいよよ激しいフラメンコ   七兵衛
  泰然として道を説く僧     美茄子
 哲学の教科書風が読んでいる   ヒミコ
  母校はついに廃校となり     吉野
 子供らの声さわやかに月の歌   七兵衛
   アニメ見ながら濁り酒酌む   依子
ナウ 湯上りの宿の半纏秋団扇    美茄子
  散歩をせがむ犬の啼き声    ヒミコ
 公園のゲートボールは賑やかに   吉野
  見上げる空に真っ白な雲    七兵衛
 花一片散ってこの世は事もなし   美茄子
   届けられたる鯛の浜焼    依子
起首2010/7/9 満尾2011/11/ 於 インタネット
*入選
  歌仙「 紋瓦 」の巻     齋藤 桂捌
 木守りや軒深き家の紋瓦       齋藤桂
  微動だにせぬ池の寒鯉       城依子
 焼きたての名代の菓子に列できて  岡部七兵衛
  笑顔をかえし人のすぎゆく   八尾暁吉女
 月明の苑に朗々カンツォーネ     依子
  夜長たのしみ拍手喝采          桂
火祭りに天狗まぎれる鞍馬山     暁吉女
   猛威をふるう恋のウイルス     七兵衛
 上がる熱止めようも無き片想い      桂
   地下の酒場で苦き酒酌む      依子
 夢のまま消えてしまった乱歩賞    七兵衛
  野猿の遊ぶ島の交番        暁吉女
 オリーブが咲いてゆっくり時ながれ   依子
   ソーダ水手に浴びる月光     桂
 閃きも努力も運も手繰り寄せ     暁吉女
   次代へつなぐ伝統の技         桂
  花盛りひと休みする登り窯      七兵衛
   田鼠化して鶉と為る頃        依子
ナオ 旅心ふわりふくらむ春の朝    七兵衛
   新幹線は北へ南へ         暁吉女
  取材記者引き連れ総理忙しなく    依子
   足音をのむ厚い絨緞          桂
  雪の中真紅のバラの届けられ   暁吉女
   愛を編みこむ白いマフラー     七兵衛
  追伸に万葉人の相聞歌          桂
   隠れ里には出湯こんこん       依子
  夏痩せの母の手を引く散歩道   七兵衛
   教会の窓開けられしまま        桂
  妖精のほおりなげたる小望月    暁吉女
   べったら市の賑わっており 依子
ナウ 下駄履きの身も爽やかに隅田川七兵衛
   独演会は五十回目と        暁吉女
  革表紙こまめにつけた日記帳       桂
  棚にずらりと石の標本       七兵衛
  古刹いま花爛漫の装いに        依子
   仮想空間ぬけてうららか      暁吉女
起首2010/12/1 満尾2011/1/28 於 インタネット
*入選
  歌仙「古都の春」の巻      岡部七兵衛捌
   声明の風となりけり古都の春  岡部七兵衛
   草萌え出づる川沿ひの道       齋藤桂
  手びさしで帰る小鳥を見送りて     城 依子
   望遠鏡は少し重たい      八尾暁吉女
  月の宴夢語り合ふ姉妹      桂
   注がれし新酒香りふくよか  七兵衛
 もののけの遊んでゐるか薄原    暁吉女
   同じリズムで過ぎるSL      依子
  胸の奥大きくなってくるあなた   七兵衛
   婚礼衣装今日は仮縫ひ       桂
  にっこりと聖母マリアの立ち給ふ   依子
   アニメ壁画の小児病棟      暁吉女
  好物のいちご頬張る女の子       桂
   夜店ひやかす客に夕月      七兵衛
  境内に猫がゆっくり集まって    暁吉女
   市長候補の品定めする       依子
  由緒ある花の大樹に時忘れ       桂
   白いスカーフなびく弥生野  七兵衛
ナオうららかに広がるフォークダンスの輪  依子
   試合終はればみんな友達     暁吉女
楽しげに異国語なども飛び交って   桂
   初心者向けの茶道教室      七兵衛
 小振りなる焼締め壷に寒椿     暁吉女
   情炎のごと燃ゆる狐火      依子
 来る来ない待てども来ない憎い奴 七兵衛
  真珠のピアス寂しげに揺れ    桂
中東に次々起る市民デモ     依子
  平和を祈り鳴り止まぬ鐘       桂
   海の香に在所の月を思ひ出し    暁吉女
  夜の身に入む放浪の旅      七兵衛
ナウ 地芝居の役者もひたる露天の湯 暁吉女
  旧家の梁の黒々として      依 子
  人力車ゆうらりと行く石畳     七兵衛
   京のことばを少し教はる 桂
  花の夕山を見上げて深呼吸      依子
   翅をやすめる黄蝶白蝶     暁吉女
起首2011/2/5 満尾2011/3/1 於 インタネット 
*入選 
歌仙「九十の恋」の巻    捌 石川 葵
 九十の恋かや白い曼珠沙華   繁原敏女
   後髪引く宿の夕月        稲垣渥子
 状差しにちちろ小さく描かれて   石川 葵
   当番忘れ遊び廻る子      谷本守枝
ビーカーをごしごし洗う理科教師  板倉 合
   峠の村に初時雨来る       渥   
 立枯の巨木そのまま年守り    枝 
   太く短く生きる人生         枝 
 洋館の女主は巴里が好き      女  
   サテンのドレス翡翠輝く       渥  
 鉄条網君を盗んで逃避行       合  
   最終章へ響け「英雄」       渥 
 ギヤマンのワインに酔うて月明かく 葵  
   薄翅蜉蝣群舞しており       合  
 両国へ仕切り直しの力士行く     女 
   キャリアを狙う検察の罠      枝 
 花霞一炊の夢醒めやらず       女 
   年若き海女磯笛を吹く       枝  
ナオ春うらら象の模様の青銅器     渥 
   新幹線は掃除中です。       枝 
 ありがたや文殊菩薩のストラップ   枝 
   終活と言う言葉ずっしり       渥
 はひふへほほっほと食べる太鼓焼き 女 
   ボディースーツに乳房押し込み   合 
 午後五時の彼を見初めし昇降機    渥 
   想い叶えて開くぼうたん       葵 
 顎なでてくれと擦り寄るねぼけ猫    女       塾へと急かすエプロンの母     渥 
 月良しと仰角上げるISS         合 
   酸漿鳴らすことのむずかし       枝
ナウたっぷりと薬味を散らす秋刀魚飯  渥 
   一病息災食べて眠れて       枝 
  開拓の苦労話を郷土誌に        渥
   鳥雲に入る潮の満ち引き       合 
 大富士に御座す木花開耶姫       葵 
   ふらここ揺らす父と幼児        枝 
 平成二十二年九月二十一日 首尾 於桜花学園大学
*入選   
歌仙「鳴釜の」の巻         衆議判 
 鳴釜の御堂時雨れる吉備路かな  石川 葵
    駅に降りたち寄せる肩掛  佐藤ふさ子
  BBSこぼれる若さ垣間見て   鳥海 唯 
    大繁盛の米粉ドーナツ       葵 
 水たまり地上の月を擁くらん       ふ
    窓ひやひやと竪琴を弾く      唯
 購える虫の図鑑を仕舞う兄      葵
    南米行きの夢を語りつ       ふ
  絡みつく眼差し心奪われて      唯 
    仙女するりと忍ぶ枕辺       葵 
  酔いどれのたわ言聞きし人も無く   ふ 
    夏の霜置く辿り来た道       唯 
  アセチレンランプの匂い金魚売    葵 
    ガラス細工の地球廻れる     ふ 
  舞踏劇佳境に入る午後八時      唯 
    舌下錠持つ父の横顔       葵 
  豆力士勝鬨あげる花隣        ふ 
    カチャと撮りおく初虹の裾    唯 
ナオうららかに遺跡静もるハイウエイ  葵
    DNAの鎖連綿       唯 
 短命の総理日本を背負えるか   ふ 
    五濁の塵を流す海原     葵 
  許せないことも許して湯豆腐を  唯 
    相惚れの仲妬む灰猫     ふ  
 ガーターに潜ませておりデリンジャー 葵
    栞はさんできょうはおしまい  唯 
  跳ね橋は又ゆっくりと繋がって   ふ
    粋に会釈を返す棟梁      葵 
  ワインバー止まり木で待つ真夜の月 唯
    蟋蟀の音の静寂を断つ     ふ
ナウ地芝居の野暮もよかれと笑い合い 葵
    お国訛に浸るひととき       唯 
 重たげにロープウェイは山頂へ     ふ 
    踏み絵の残る教会の門     葵 
  幹抱く花の鼓動のふれる如     唯 
    健やかなれと揚げる大凧    ふ 
平成二十二年十一月八日首 翌年二月七日尾文音
*入選
歌仙「深まなざしのゴリラ」の巻   岡部七兵衛捌
  冬天へ深まなざしのゴリラかな   伊都のヒミコ
   紅葉舞い散るおだやかな午後  岡部七兵衛
  和菓子舗の藍の暖簾をくぐるらん  城  依子
   女主人の点てるお抹茶        桜井吉野
 月見舟いつしか湖の中ほどに   萩の屋千鳥
  色無き風に響く組鐘(カリヨン)     ヒミコ
ウ べそをかく妖怪も来るハロウィーン  七兵衛
   みんな揃って記念写真を         依子
  週刊誌ありそうもない嘘ものせ      吉野
   私の彼は十も年下            千鳥
  お互いの吐息溶け合う忍び合い    ヒミコ
   ひそひそひそと森のささやき    七兵衛
  衣脱ぎ蛇がのっそり月の道       依子
   閻魔詣にはずむ賽銭           吉野
  永田町国を揺さぶる音がする      千鳥
   メビウスの輪をもてあそぶ指     ヒミコ
 花爛漫宇宙を回る地球号      七兵衛
   都踊りは今がたけなわ        依子
ナオ ジパングの往復切符旅うらら  吉野
   プチ整形で皺を伸ばして      千鳥
  恋しさにからんころんと下駄の音 ヒミコ
  人影も無い丑三つの町      七兵衛
 思い出を肴に酒を酌みており    依子
  華麗なリズム銀盤の舞      吉野
 夢のごと凛と咲いたる寒薔薇    千鳥
  蹴出しの赤に地下鉄の風     ヒミコ
 懐に神田明神守り札         七兵衛
  ハローワークに通い続ける     依子
 ちぎり絵のような昼月あわあわと  吉野
   ひとりぼっちの軒の鬼の子     千鳥
ナウ 質草を流してしまうそぞろ寒   ヒミコ
   一刀彫にかける人生       七兵衛
  初めてのブログがなぜか評判に   依子
   静かに直す紙雛の向き      吉野
  瑞祥のかしこきあたり花の雲   ヒミコ
   甍に遊ぶ小雀の群         千鳥
起首2010/11/21 満尾2011/3/21於 インタネット 
*入選   
  歌仙「子らの夢」の巻   齋藤 桂 捌
             
  書初や料紙はみ出す子らの夢  齋藤  桂
   蓬莱飾はれの床の間     棚町 未悠
  猫柳ビロードの芽を誇るらん  澤藤 蓑助
   はるかに望む残雪の山    岡部七兵衛
  畑返し終えて月夜の径急ぐ   城  依子
   間近にせまる将棋大会        桂
  新調の作務衣が似合う若き僧   未悠
   女坂より来る足音           蓑助
  曖昧なあなたの科にじらされて   七兵衛
   魑魅魍魎が古蚊帳の裡         依子
  木葉木菟啼きついでおり杣の家     桂
   刺身こんにゃく父の好物      未悠
  月見酒志ん生の芸なつかしむ     蓑助
   最終のバス過ぎてうそ寒     七兵衛
  公園のオブジェに縋るいぼむしり   依子
   池のまわりは試歩に最適       桂
  数式を愛す博士に花万朶       未悠
   巣箱の穴は二十八ミリ       蓑助
ナオ 春のジャズわが胸中は青い空  七兵衛
   国境越えて育つ友情        依子
  古代文字読み解くことに時忘れ    桂
   図書館の隅山積の本        未悠
  羚羊の昂然と立つ岩の上       蓑助
   くしゃみ可愛い君にぞっこん   七兵衛
  人目避け通い続けてはや三年     依子
   今日はじめての胎動があり      桂
  窓の外スカイツリーのクレーンも   未悠
   江戸の地名に多き谷の字      蓑助
  寝静まる宿場町筋月の影      七兵衛
   ピーナツむきつ家族団欒      依子
ナウ 爺さまのべい独楽自慢きりもなし   桂
   片足立ちの体力測定        未悠
  川下り舟の行方を決める棹      蓑助
   木遣り流れる谷間の村      七兵衛
  神楽殿ひらひらと花舞い込みて    依子
   おたまじゃくしの楽しげな昼    蓑助
起首2011/1/4 満尾2011/3/11於 インタネット
*入選
  歌仙「無人駅」の巻   城  依子捌
  山笑い風が乗り込む無人駅      城依子
   合格通知ポケットの中      伊都のヒミコ
 ミュージカル春の主役に選ばれて岡部七兵衛
   磨き上げたる大玻璃の窓    根本美茄子
  水瓶に今宵の月のゆらゆらと   黒澤かすみ
   後の袷のしつけ糸取る        依子
 色変えぬ松に大使の馬車の列     ヒミコ
   影のごとくにルパン参上       七兵衛
  夫の目を盗んで交すアイメール    美茄子
   めくるめく夢紡ぐ蜜房       かすみ
  うつし世の修羅に背を向け禅寺に    依子
   こども手当はパチンコに消え    ヒミコ
  月上り徐々に賑わうビヤガーデン   七兵衛
   色鮮やかに茄子の漬物       美茄子
  代筆の母の便りのほのぼのと     かすみ
   あしたはきっと良いことがある    依子
  弓なりの大和まほろば花の雲     ヒミコ
   西へ東へ舞える佐保姫       七兵衛
ナオ 清明にまなじり決す仕分人    美茄子
   洗濯物に糊をきかせて       かすみ
  海鳴りが耳をくすぐる夕まぐれ     依子
   幾星霜をサナトリウムに      ヒミコ
しょんぼりとおいてけぼりのかじけ鳥七兵衛
   端から溶ける皿の煮凝り      美茄子
  混浴の湯気の向うに白き肌     かすみ
   魔性の笑みに男骨抜き        依子
  浮舟に乗りて補陀落渡海せん      ヒミコ
   姿正しき富士の霊峰        七兵衛
  しらしらと風の抜け行く後の月  美茄子
   運動会の祝辞頼まれ        かすみ
ナウ絵手紙に描きし秋刀魚の生けるごと 依子
   ケアーハウスに響く童謡      ヒミコ
  宇宙からのぞく地球は美しく     七兵衛
   久方ぶりに逢いし輩        美茄子
  花の下会釈して人すれ違う     かすみ
   蝶たわむれる哲学の道        ヒミコ
起首2010/3/15 満尾2010/6/29於 インタネット 
*入選
  歌仙「十三夜」の巻   城 依子捌
  水音を聞きに出て行く十三夜  城  依子
   影を正しく並ぶ藁塚     小山百合子
  新蕎麦に自慢の腕を奮うらん  岡部七兵衛
   長袖シャツの袖まくり上げ   棚町 未悠
  たっぷりと墨を含ませ祝の文字 澤藤 蓑助
   静かに街は大寒に入る       依子
 ガリバーによじ登る子ら雪祭    百合子
   若いカップルつつむ恋風     七兵衛
  貴婦人と森番が会う納屋のそば    未悠
   牛乳積んだ馬車が過ぎゆく     蓑助
  古傷を労りながら湯に浸かり     依子
   ひとつ覚えの江刺追分      百合子
  宵涼し月と並んで屋台酒      七兵衛
   天牛そろり足元を這う       未悠
  奥津城は山のふもとにひっそりと   依子
  河童の民話語り継がれて     百合子
  花吹雪校庭に舞う下校時       未悠
  ジョギングの影揺れてうららか  七兵衛
ナオ 初虹へゴロゴロと曳く旅鞄    百合子
   夢と希望を抱き続ける       依子
  宝籤競馬競輪投機株        七兵衛
   雨しとしとと湯島天神       未悠
  寒紅を刷きていつもの茶房へと    依子
   ふたりの愛のはじまりは冬     七兵衛
  逃避行瞽女の姿に身を隠し      未悠
   果ては野末のされこうべとも    依子
  与野党で国を揺さぶる選挙戦     七兵衛
   芥川賞受賞者はなし        未悠
  月の縁ひとり愉しむハーブティ    依子
   胸にしみ入る雁の声       七兵衛
ナウ 公園の時計止まりて秋惜しむ     未悠
   沖へ沖へと遠ざかる船       依子
  母さんの手を引き上る寺の道    七兵衛
   白和えの味しかと受け継ぎ     未悠
  とこしえの命をつなぐ花大樹    七兵衛
   一指舞いて去りし佐保姫      未悠 
  起首2010/8/16 満尾2010/11/10於 インタネット
*入選
  歌仙 「北の春」の巻    捌 武藤美恵子
 地が震え水襲い来る北の春      美耶子
  三月半ば結ぶおにぎり        合
 木蓮の綿毛はつんと上向きに     益美
  私のあくびと猫のあくびと      とみ子
 編集長パソコン閉じる良夜なり    節子
  遮断機の音風はさわやか      と
柿吊るす祖母の教えは宝物 、    益
   長い黒髪シュシュでまとめる    々
 露天風呂湯気にかすんだうすい肩  文子
   そっと触れればふわりくずれて   希
 砂山の小さなシャベル真新し      と
   シュークリームの甘さほどよく    節
 やさし気に月の見下ろす草蛍     恵
  竹床几では烏鷺の争い       合
 吉凶を水晶玉にのぞく魔女      節
  不明の年金知っていますか     と
 断崖の臼杵大仏花吹雪く       希
   鱒の弁当バスで配られ       と

ナオ
陶工の四方山話うららかに     文
   前へ前へと進む人生         と
 耐えている病の犬の潔さ        耶
   ピアノソナタのもれる薔薇窓     希
 こっそりとビンテージワイン買いこんで 益
  古希の先生羽織る半纏         合
 ストーブの給油ランプが点滅し      と
  二人で降りた単線の駅         文
 別れるか死ぬか他には道もなく    渥子
   ぽっかり浮かぶまんまるの月     と
 秋鯖の煙吐き出す換気扇        耶
   ひょんの実脇に夢を語らう      益
 運動会地区別リレーで盛り上がり    文
   ダムの水門閉ざされたまま     と
 省エネで豊かに暮らす人の知恵    合
   雛のあられを焙烙で炒る      渥
 旅の宿今年限りの花を見て       益
   雉の隠れる土手の草むら      恵
平成二十三年三月十七日起首  四月二十一日満尾
於:水源クラブ 
*入選  
    歌仙「白粉花」     捌 山寺たつみ
 入り乱れ白粉花の咲きにけり   岩崎 逢人
  木立の彼方浮かぶ弦月     栗原 威人 
 文化の日落成式に招かれて   平林 香織
  羽織袴の老いたご夫婦     八木 曄子 
 写真屋のウィンドー飾る三代目  栗原 良子
  ちょっと一服氷金時        梅津 慶子
誘われた金魚すくいの難しさ   山寺たつみ
  楽屋に入る女噺家             逢
 振られたとやっと気がつく待ちぼうけ   織 
  深酒しても浮かぶ俤            曄 
 ポンユーがお国言葉で話しかけ      威 
  ソファーで眠る小太りの三毛  返町 淳子 
 風邪心地早寝の窓に丸い月        み 
  回覧板を回す着ぶくれ           織
 自転車でゆっくりと行くパトロール    曄 
  留守電ランプ赤く点滅           威
 病床に花びら一つ二つ舞い        み 
  春を惜しんで日めくりをはぐ        曄 
ナオ暮遅く干店畳む若い香具師    威
   友に出会った駅の人込み     み
  恒例の浅間登山に弟と       曄
   熱いコーヒー飲んで出発     逢
  夏休みお化け屋敷のアルバイト  良
   夕立過ぎて風も涼しく       慶
  犀川の橋詰に立つ君の影     威
   はにかむ肩をそっと抱き寄せ  み
  見つめ合うスウィートルーム熱い息 慶
   遠い笛の音しみじみと聞く     良
  月明にそぞろ歩きの城下町    慶
   バイクで回る棚経の僧      威
ナウ閉め切った奥の座敷にちちろ啼く み
   久濶を叙す古い温泉        逢
  加薬飯つい大盛りでお代わりし   良
   峠を越えて目指す故郷       慶
  久しぶり母の手を引く花の道    威
   風やわらかな北国の昼      良
 起首 平成二二年九月二日満尾 同年一二月九日
   於 小布施町公民館 まなとも連句会

2011年7月8日打ち上げーISS国際宇宙船に搭載中 
  *入選 
    歌仙「初蝶や」     捌 山寺たつみ 
  初蝶やそぞろに揺れる旅心    栗原威人
   美容院へとうららかな道    山寺たつみ
  椿餅買ってきてねとメール来て  栗原良子
   やおら背伸びの長椅子の猫      威 
 更待の街ぶらぶらと寄席帰り       み
   追い越してゆく子らは夜学か      良 
 自炊する倅に送る今年米       威 
   新作ドラマ楽しみに待つ        み
  耳元に小さく光るイヤリング      良
    若い燕に腕をあずけて        威 
  睦言を思い出させる甘い声       み
    名物市に客の行き交う         良 
  野馬追の町飲み込んだ大津波     威
    髪を洗ってほっと一息         み
  涼風が頬を撫でてく窓に月        良
    クラスメートともんじゃ焼屋へ     威
  傘寿との花守殿の内祝          良
   盆の上には残る伊予柑         み
ナオ春炬燵妻の電話は切りもなく     威
   へへののもへじメモを埋める    み
  芳一は耳だけ経を忘れられ     良
   ひっそり暮らす落人の里       威
  ほろ酔いでサッカーを見る北吹く夜  み
   だるまストーブご自慢の父     良 
  道化師を目指す美形の次男坊    威
   約束の娘が故郷で待つ       み
  教会の祝福の鐘高らかに        良
   平戸の海は青く輝く          威
  夕鵙に竿を収める釣果零        み
   三日月拝む幼子の影         威
松茸が豊作ですと届けられ      良
   賭け事好きな伯父の葬式      み
  創業の苦労を胸に支配人       威
   朝の新聞ゆっくりと読む       良
  花を待つ甘味処は城の跡       み
   山並遠く霞棚引く           良
  起首 平成23年3月13日 満尾 同年5月19日
    文音・メール  まなとも連句会

2011年7月8日打ち上げーISS国際宇宙船に搭載中
*入選
歌仙「亀鳴くや」の巻     田岡 弘 捌
 亀鳴くやどうにもならぬこと多く 田岡
  裏の小川の水温む頃  佐々木榮一
 雛の客絶えることなく暮れゆきて  弘
  子等の笑顔に心地よき夢     一
 真青なる空に浮かびし昼の月    弘
  萩を揺らせて風の戯る       一
教会の鐘の音にも秋深み      弘
  ふつと認めし初恋の人       一
 魂は炎のごとく燃え上がり      弘
  過去といふ字をなぞる指先    一
 政界の混迷の度は増してゆき   弘
  思ひ通りにならぬカーナビ     一
 十五夜に植田の広く耀ひて     一
  鋭く響く郭公の聲            弘
 地下鉄を出て喧騒の街の中     一
  ティールームより望む海原     弘
 なにゆゑを以てか花の散り急ぎ   一
  龍馬旅立つ春の曙         弘
ナオ長閑やかに飛行機雲の伸びゆけば 一
  年金手帳改めて見る           弘
 小遣ひを可愛い孫にせがまれて     一
  玩具箱には多種のロボット       弘
 寒菊は兵士の墓に供へられ       一
  残る虫にも悩みさまざま         弘
 存分に腕ふるひたきことのあり      一
  君と過ごすは恍惚の時         弘
 ゴシップはふたりのあひだ切り裂きて  一
  城の址だと分かる石積み        弘
 立待の月皓々と天心に           弘
  転けつまろびつ急ぐ瓜坊         一
ナウ濁酒竹馬の友の懐かしく         弘
  いつの間にやら消ゆるしがらみ     一
 隣国にGDPは譲れども           弘
  山河まだまだ美しきこと         一
 今年またひと日を京の花に酔ひ     弘
  永久を願へば風のやはらか      一
 首 平成二十三年二月十日 尾 平成二十三年三月八日
於 インターネット