此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 (2015/3/5~4/23)

前句   此やうな末世を桜だらけ哉    一茶


「募集」中日新聞2015年3月5日(木)募集

 (寒い空すうっと息を吸い込んで ドリー)
じっと目で追う合格掲示         瓜也
術後の足に願いを託し         加津子
夢に向かっていざまいろうか        侑
 (寒い空すうっと息を吸い込んで)
ロウバイマンサクスイセンの群れ      涼
一輪ひらく沈丁花の香          泰枝
 たくさんの付け句ありがとうございました。さて、つぎの宿題ですよ。突然春たけなわへ。
  此やうな末世を桜だらけ哉    一茶
 江戸時代の小林一茶さんの句に七七句を付けてみませんか。―やれやれ、このようなひどい末世でも、桜はそこらじゅうに咲いて華やかだって慨嘆してる一茶さん。その二百年後の平成も桜だらけですが皆さんはいかがお過ごしですか。 
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
ゲーム機持って子らは公園         合
 あなたと周囲の暮らしを見つめて。世相、時事句はよく付きそうです。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
朧の月に酔うてをります          葵
 美しいひととき、桜の下の恋もいかが。想像豊かにSFや物語、お笑い句も。付け句ははがきで〒460 8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛て。住所、電話番号、ペンネームのかたも本名を必ず。十五日(日)までにご投函を。七七句ですよー。
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「しめきりですよ」中日新聞2015年3月12日(木)締切

 宿題付け句はお出しになりましたか。
  (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )             避難したまま戻れない村         渥子
末世とは仏教語では「釈迦入滅の後、仏法が衰え社会が乱れる世」と。もちろんわれらが今もなお末世です。それで生きるの大変なんだ!
一茶がこの句を詠んだのは五十二歳。十五歳で江戸に奉公に出され苦労の末、俳諧師として名をなし、生まれ故郷の信州へ帰って落ちついたころです。近在の二十代の弟子を訪ね、ふたりで歌仙(三十六句)を巻いたときの発句でした。
  此やうな末世を桜だらけ哉   一茶     
   今やひがんとほこる鶯    文虎
一茶がこの日「このような」末世なんて言い出したのは当時の何か世間話をした後ではーと私の想像です。文虎は「でも今はもうお彼岸。鶯も桜の中で極楽のように盛んに鳴いてますよ」と明るく答えました。尊敬する宗匠と差し向かいでの両吟連句にわくわくかも。そうそうその二ヶ月後一茶は生涯初の嫁取りをするんです。お相手は二十六歳! これってこの際関係ないかな。
  (此やうな末世を桜だらけ哉)
もの言いたげな蝶がひらひら      あづさ
付け句ははがきで〒460 8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛て。住所、電話番号、ペンネームのかたも本名を必ず。十五日(日)までにご投函を。七七句ですよー。
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「滴らぬ春」中日新聞2015年3月19日(木)発表1

 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
お昼休みのコンビニ弁当        加奈子
芝に餌つつく椋鳥の群れ         節子
 そろそろ花前線がやってきましたね。
(此やうな末世を桜だらけ哉)
俺に惚れたは花粉に黄砂        やすを
 ファーックション。
歩いてるのはマスクとスマホ       のに
 ほんと。最近急に変わった町中――家でも。
母のスマホが「ごはん!」と呼ぶよ    辻坊
 「下のキッチンから二階の子ども部屋へ。声はいらない。だんだんこうなるのでしょうか」
スマホを閉じて俺の目を見ろ     橋本悟郎
(此やうな末世を桜だらけ哉)
イカ・エビ・マスに餅・貝・雨も      蕗
わかります? 桜烏賊・桜海老――あ、桜雨もきれい。言葉遊びです。
(此やうな末世を桜だらけ哉)
トリクルダウン滴らぬ春       山田登志
 トリクルダウンは富裕者の富が増えれば低所
得者にも恩恵が滴るという政策論ですね
(此やうな末世を桜だらけ哉)
あとは野となれ株価上がれよ     春うらら
アベノミクスの行方知らずも        慶
(此やうな末世を桜だらけ哉)   
外れ券舞う競艇の河          ふさ子
湖面をおどる春の陽光        石川牧子
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「世論横目に」中日新聞2015年3月26日(木)発表2

 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
雲雀の声が雲のどこかで        おたま 
キャベツ畑に蝶がいっぱい        幸江
 「家庭菜園は怠けると手おくれです」と。春爛漫、みんな旺盛に生きてますねえ。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
ハラミタン塩ビールも追加で     かーぽん
 こちらは「親子で焼肉食べまくり」ですと。
コレステロール値薬で下げて       泰枝
 運動もしなきゃ。
ゴミでカラスはバイキングする     お佐代
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
ハイレゾ画像で済ますお花見     フィガロ
 おやおや。パソコン上の高解像度画面です。
水耕栽培野菜工場            政彦       
 農業に土と腕力がいらなくなってゆくー。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
世論横目に原発動く        小林喜代春
 じりじりと体制が進める再稼働。
メルケルさんと首脳会談       山本尚子
 福島を契機に脱原発に転換したドイツと、事故を起こしたこの国。どうごらんになりましたか。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
見えぬ魔物に乗っ取られた町      ひろみ
 「あの三月十一日から四年が経ち何もできないのですね」
帰れぬ村は猪の天下に        樋田和子
   (矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「事無きことの」中日新聞2015年4月2日(木)発表3

 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
一分競う通勤の朝          えこりん
 さあ、桜の中を出勤。
背筋のばして新色ルージュ      柏原久子
くっきり眉が春の流行         みゆき
 ここ数年のほっそり描き眉の流行が変わり自然な眉になってきたそうな。
三日見ぬ間に母も美魔女に        直子
 「うふ、最近整形美人も増えてるそうです」
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
わんさわんさと北陸路行く      堀場康一
 新幹線開通。しかしまた大東京集中ですね。 
おーいリニアがすっとんでくよ    がいこん 
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
武器の輸出に新庁作る       木蓮ちゃん
かかる霞に何をか隠さん         深凪
 「この国が民の知らぬ間に取り返しのつかぬ方向
に進んでしまっているような不安を感じます」
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
男女八人古稀のいろいろ          惠
 「花の下に集まれば離別死別、はたまた介護、仲間の介助」実は心身ともにえんやこらの時期。
明日も来るで待っとってーよ     あんでん        「入院の父へ帰りの挨拶です。父はニコッとしてくれます」
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
事無きことの包むしあわせ      ハッピー
優しい雨が濡らす山々         美耶子
    (矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「羊さん」中日新聞2015年4月9日(木)発表4
 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
トロッコ列車カーブする春        文子
 花爛漫の旅ですね。
ぼんぼり灯し渋滞の町          牛語  
発泡酒のみ踊りあかさん        眠り猫
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
嫁さが来ずに還暦がくる        大二郎
離婚未婚と共生老後        かぐやひめ
 家族から自由な共生へ。発想転換がいるかも。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
隣国からくる爆買いツアー       こんど
 さて、円安の先行きは。
借金だらけ平成国家         弥太っぺ 
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
軍靴の音は空耳なるか          恵紅
めぐり来たるか戦える国        かにこ 
 えっ、首相が自衛隊を「我が軍」と口にする。
怒る時には怒れ羊さん         ドロン
 われら羊。羊の責任。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
上野見わたす西郷の像           紅 
 敗戦の焼け跡から七十年。戦争をしない、殺さないことを当たり前とする人々のお花見だよ。
スマホ相手の傍観人生          獅狼
 「世界の傍観者でいたいという欲求が増えている気がする」と。傍観できるか。      
ぴーぽぴーぽと救急車ゆく      もんたん
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「男一匹」中日新聞2015年4月16日(木)発表5
 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
ミニスカートに花びら流れ        めぐ
裏山に咲くかたくりの花       塚本益美
 春、美し。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
定年夫をまたいでは越え      水野千恵子
 「また朝寝ごろごろ」「粗末にすんなよな」
何を探しに冷蔵庫開け         ぼっけ
 「牛乳じゃないし」「財布でしょ」「あ、そうだ、冷蔵庫にはないな」よくあることで。     
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
ペットと歩む老々介護        ロッシー
老人ホーム次々に建つ        近藤富子
 施設にはいるか。自宅療養は可能か。じっとわが手を見る。貯金通帳を見る。
母をなだめて実家片づけ         久美
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
保育士めざす男一匹         伊藤紘美
 春、たのもし。
看護師と成る孫や輝く       横山美枝子
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
後悔ばかり残る原発           ウゴ 
放射性廃棄物どこに埋めるか      キング
 フィンランドでは岩盤地下深くに十万年封鎖隔離する工事が進行中というけれど、さて。
 (此やうな末世を桜だらけ哉)
眉をひそめている阿修羅像        侘助
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)

「募集」中日新聞2015年4月23日(木)募集
 (此やうな末世を桜だらけ哉 一茶 )
辺野古の海にジュゴンの涙        ひわ
黙祷の日の今世紀増え         やまだ  
赤い鳥居は津波忘れず           暁
 東日本大震災を人々と耐えた高台の鳥居です。
 (此やうな末世を桜だらけ哉 )
鍋磨いてる今日の仕上げに       とよこ
 ひと日ひと日をていねいに生きる。
地蔵菩薩も憩う黄昏         磯貝雅人
 二百年の時空をつなぐ一茶さんの句との交流はいかがでしたか。多くの佳句をまだ手元に残しつつ、つぎの宿題です。
  信号待ちにどっと薫風      れい
この七七句に五七五句を付けてくださいな。
 (信号待ちにどっと薫風)  
がにまたであかんべ顔のブルとぼく     葵
 いろんな人が気持ちよい風の中。姿それぞれ、思いそれぞれ。自由に想像してみてください。
 (信号待ちにどっと薫風)
約束の噴水広場にあと2分         藍
 恋句もぜひお楽しみを。発表は五月ですから輝く初夏の自然も感じて。もちろん時事句、お笑い句歓迎です。SFなど物語の場面作りも。付け句ははがきで〒460 8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛て。住所、電話番号、ペンネームのかたも本名を必ず。五月三日(日)までにご投函を。五七五句ですよー。
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)