平成28(2016)年第31回国民文化祭・あいち文芸祭「連句」大会

名古屋市長賞
  歌仙「北斎の龍」の巻    捌 石川 葵

 蒼天を北斎の龍昇りけり        石川 葵 
   大地の恵み受けしものの芽    谷本守枝
 靴工房春のデザインとりどりに     矢崎 藍
   FMラヂオ音の程よく             葵
 旅めきて片側町に月の影            枝
   一里さきより匂ふ木犀            藍
京劇の名優揃ふ秋舞台             葵
    駐車違反の切符きられて         枝
  歯の痛む彼のもとへと今すぐに        藍
    君の笑顔は万病に効く          葵
  海で逢ひ海で別るる淡き恋          枝
    線香花火ふっと落ちたり          藍
  夏衣肩揚げを縫ふ母に月           葵
   長押の写真兵卒のまま            枝
  ドローン飛ぶ人は賢くなったのか       藍
    機密文書はシュレッダー行き       葵
  神宿る大樹の桜ゆさゆさと          枝
    駒の孕めば遠きまなざし         藍
ナオ朝寝して今日は何日何曜日          枝
    下宿部屋には有象無象が        葵
  芸術は爆発!てふ書きなぐり        藍
    正体かくす仮面妖しく            枝
  札束でなびかぬ女ボブカット        葵
    キスはディープに銃は冷たく       藍
  雪暗の森の中なる線路跡          枝
    大梟の守る縄張り             葵
  祖父の注ぐ紅茶と祖母の焼くクッキー   藍
    身の丈に合ふ暮らし安らか       枝
  稿終ふる半月の透くあけぼのに      藍
    研究室に満つる爽涼           葵
ナウ三陸の腹太秋刀魚とれ始め         枝
    観光バスで糶を見学           葵
  名刺にはHAIKU POETと記されて   藍
    無明の酒に酔うてをります       葵
  花衣たたむ袖より花弁落ち         枝
    檳榔毛車にとまる蝶々          藍
           平成28年3月8日起首4月16日満尾 文音
 愛知県連句協会会長賞
    歌仙『レントゲン 』の巻  捌 石川 葵 
  
 レントゲン素直に息を止める夏   石川 葵
   気が付けばけふ時の記念日   坂本孝子
  和太鼓の撥の捌きの軽やかに       葵
    岬の洞に響く上げ潮            孝
 光る澪残し彼方へ月の舟           葵
   窓辺に飾るコスモスの壺          孝
 いそいそと秋袷出す母のゐて       葵
    やや気の置ける家元の茶事       孝
  持参金いくらかしらと噂され         葵
   キスばら撒いて降りるタラップ       孝
  主人待つ盲導犬はわき見せず       葵
   寒月白く浴びる聖母子           孝
  熱々の蕪のポトフに癒されて        葵
   五体沈める革のスツール         孝
  達筆の辞職届は引き出しに         葵
   動く字典と綽名されける          孝
  ニーチェ真似神の死告ぐる花の下     葵
    ただかぎろひて原子炉は在り      孝
ナオ壁掛けの農事暦の種おろし         仝
    婆はネットで味噌漬を売る        葵
  人情と少しの欲を天秤に           孝
   妖狐も末は石となりゆく           葵
  反魂香焚く翆帳に雪女郎           孝
   市民大学講師ダンヂィー          葵
  レポートのそれはさながらラヴレター    孝
   駆け落ち先を示すカーナビ         葵
  七十年戦後を遠き國に住み         孝
   幸せ貯金ちやうど満期に          葵
  名月の射し入る堂の般若経         孝
    影は地に揺れ銀の穂薄          葵
ナウ芸術祭コンセプトにはジャポニズム     孝
   ラベルにSAKEと飾り文字書く       葵
  伝説の店の主の髯も老い           孝
    豆屋の軒に住み着いた鳩        葵
  花の雨あした晴れれば叶ふ夢        孝
   モーブカラーの春のスカート         葵
     平成二十七年六月十四日起首八月二十六日満尾・文音
 入選  歌仙「枝垂れ梅」の巻   藤 桂 捌
  枝垂れ梅影も妙なる神の庭   齋藤  桂
    千木突き刺さる料峭の空   名本 敦子
  入社式紺の背広で臨むらん   上田真而子
    メールではなく声が聞きたし      桂
  校了の消灯すれば月指し来        敦
    名残の簾揺れるともなく         而
  柿の名は禅寺丸とや山の宿      桂 
       猫が人気と聞けば猫飼ふ      敦
   独り居の気儘といふが曲者で      而
     少し濃くなる口紅の色         桂
   夢に見る恋は実らぬものらしく      敦
     角を曲がれば新世界なり       而
   友と飲むビールは無論大ジョッキ    桂
     月を慕ひて現るる海亀        而
   三線にあはす島唄なつかしく      敦
    アルバム繰れば時踊り出し      桂
   清水の舞台浮かばせ花花花      而 
    車椅子ゆく囀の中           敦
ナオ いかなごの釘煮上手に出来上がり  桂 
     代わり映えせぬ国会中継       
   通販の広告にまた騙されて       而
    父の遺影の髭がピクリと       桂
    犬橇駆りて目指す北極         而
   駅裏に四柱推命古看板         桂
    離婚の度に艶を増す肌        敦
   角隠し素性も隠し玉の輿        而
     ご隠居様に裏表なく         敦
   月の宴十八番の寿限無はじまりて   桂
    蓮の実飛んで何か気になる      而
ナウ せつかちは「新酒あります」筆太に  桂 
     退屈の顎支へたる腕         敦
    ジーンズを粋に着こなすそのコツは  而
     マリオネットのボランティアたち    
   きらきらと陽差しを弾き花の雨     敦
   そこはかとなく香る草餅 而
    平成二十八年二月十八日 起首 三月十七日 満尾
入選  歌仙「愛嬌は」の巻     碧 捌
  愛嬌は目鼻で決まる福笑い      碧
    初雀来てさわぐ靴脱       雀羅
  春の風海の香をバス停に       常
    軽い煙草の増える自販機     碧
  気づかれぬ居眠りもある夏の月   羅
    ひとりごと言うレモンスカッシュ  常
 カフェバーの一番奥に指定席     碧
    運命線がいつからか濃く     羅
  処女作で文学賞を掴み取り      常
    厨に佇ちて涙する母       碧
  ほうたるになりて還りし特攻機    羅
    つまくれないの咲き誇る庭    常
  秋袷渋めの帯をきゅっと締め     碧
    和琴の弦に弾かれる月      羅
  街角のからくり人形時告げて     常
    水晶玉で未来占う          碧
  花冷えに鬱の始まる予感あり     羅
    墨くろぐろと鱒の拓本       常
ナオ 工房を新しくする春時雨      碧
    引っ越してきた李さんと猫    羅
  今日もまた爪の手入れを念入りに  常
    魔女が鏡に微笑んでいる     碧
  盗まれたことを知られぬラブレター  羅
    遠ざかり行く枯葉踏む音     常
  賑わいは終大師の露天市       碧
    欠けた小皿も魯山人なり     羅
  ままごとの料理は野草たっぷりと  常
    三人姉妹ときに仲良し      碧
  月満ちて千秋楽の古典劇       常
    秋の半ばの日和定まる      羅
ナウ  長靴を履いて出てゆく栗拾い  碧
    友達欲しい山姥のいて      常
  手足持つフェースブックの中の菌   
    嘘と真とあざなえるごと    碧
  定年の父の笑顔の花の宴       碧
    五重の塔にかかる初虹      常
       2016.1.13 起首 同5.3  満尾
入選  歌仙  「ピカソの女」   石川  葵捌
  福笑ピカソの女出でにけり     石川 葵
   箸から逃げし黒豆の艶     坂本 孝子
 町工場弁当組は輪になりて        葵 
   バイク便ゆく渋滞を縫ひ         孝
 星空を月渡りをり凪の海          葵
   ひんやりと弾く即興の曲          孝
石榴はじけ母はアルトでもしもしと     葵
   サスペンスには甘い匂ひが       孝
 抱へ帯小型拳銃忍ばせて         葵
  誓紙なんぞはほんの鼻紙         孝
 傷付いたままの御仏坐す寺        葵
   仮設住まひに蚊遣焚く月         孝
 缶ビールつまみ持ち寄る町内会     葵 
   NHKがマイク差し出す          孝
 役者の子見様見真似で見得を切り    葵
   鏡の前で鳴いてみる猫         孝
 はらはらと殉教の碑に花零れ       葵
   ガトーショコラに飾る野すみれ     孝
ナオ ゆく春の伝統に見るモダニズム    仝
    万年筆の蒔絵美し           葵
  調印の落としどころを探り合ひ      孝
    足のびやかに秘書のスリット     葵
  ワンショットグラスが恋の灯を点し    孝
    愛の褥に冬薔薇を敷く         葵
  虎落笛老いし執事は独身で       孝
     診療所には休診の札        葵
  海に沿ふ片側町の軒低く         孝
    肝っ玉太いうちのかみさん      葵
  月今宵取的の手にスマートフォン    孝
    もしかしてこれ毒きのこかも     葵
ナウ 秋高の株の相場に山を張り      孝
    貧乏神は妙に浮き浮き        葵
  風呂敷は物包んだり被ったり      孝
    上用饅頭入れる重箱         葵
  花くぐり三顧の礼に立てる使者     孝
   亀鳴く池に架かる柴橋         葵 
    平成二十七年一月十八日起首三 月二十日満
入選 歌仙  「土偶の目 」の巻  依子捌
 秋愁を吐きだしている土偶の目     依子
   月の雫を受けて八千草        小葦
 鎌祝おはこ次々きりもなし        妖子
   猫を従え幼児ぐっすり          桂
 夢のせて船ははらりと帆を上げる   七兵衛
   夕焼け空にひとひらの雲       依子
 まだ青き頭の僧の夏衣         小葦
    道を尋ねる歴女グループ       妖子
  気になれど未婚既婚は謎のまま      桂
    いつのまにやら恋の虜に      七兵衛
  やすやすと機密情報漏洩す       依子
   イージス艦が浮かぶ海原       小葦
  ストーブを背にワイン酌む月の夜半   妖子
   狩の話は尽きることなく         桂
  千年の伝説秘める富士樹海    七兵衛
    送信されし画像鮮明          依子
 花守の自負ありありと白い眉       桂
    霞の底に獏と居眠る         小葦
ナオ 空晴れて巣箱を掛ける声響く    妖子
    みんな一緒に開く弁当       七兵衛
   ゆるキャラが笑顔を誘う道の駅    依子
    革のカバンに地図とタウン誌    小葦
  若き日の苦い思い出桜桃忌      妖子
    木下闇の先は神苑           桂
  息荒くジョギングの人駆け抜けて   七兵衛
    熱い眼差し向けるこいさん      依子
  百人が悪く云うから好きになる     小葦
   我田引水猪突猛進          妖子
  月光の湯殿にひびく浪花節      七兵衛
   新酒松茸並びたる膳          桂
ナウ 紅葉山越えてようやく母の里      依子
   妖怪君とかくれんぼする        小葦
  強風に飛ばされて行く白い紙      妖子
    我関せずと伏せる老犬        桂
  花明かり明日はきっと良いことが    依子
    耳にやさしく佐保姫の歌      七兵衛
27年9月10日起首 27年12月20日満尾  インターネット
入選
  歌仙「申年のまた」の巻  稲垣渥子 捌
 夫逝きし申年のまた梅開く        稲垣渥子
   正座している雛の客人        間瀬芙美
 手離せば風船すいと天井に       矢崎 藍
   パソコン画面なぜかフリーズ     板倉 合
 満月を横切っていく宇宙船       冨田八穂
   柿のすだれを吊す山里           藍
 古文書を読み解きながら濁酒        合
    恋を秘めてる若い禰宜さん        同
  あちこちにハートマークのあふれ出て    芙
   勝利の傷をなめる白猫           藍
  街中にお化け屋敷の建ったげな       芙
   人呼んで寅バナナ売る月          藍
  警報器鳴り出す原発再稼働         渥
   重い荷を負い民はよろよろ         穂
  国境どちらへ行くか右左           芙
   お地蔵さまにあげるおにぎり        藍
  母子して餅花飾る奥座敷           芙
   初鶯の声は軽やか             合
ナオ公園にジャングルジムと鉄棒と       芙
   順番制の町の役員             渥
  飲み会で本音を出してはめ外す       穂
   柱時計の間の抜けて鳴る          合
  逢いたいとメールしてくる雪景色       芙
   ふたりで堕ちたパリの凍蜂         渥
  吹く風に理無き過去の流れいて   深津明子
   弾き手求めるパイプオルガン        合
  復興の海に人々戻りつつ           明
   西京漬けの鮭は好評            合
  こんにゃくを煮付ける鍋に月円か      芙
   敬老の日はいつも肩もみ          同
ナウ尉鶲常連の如物干に             穂
   遠く離れた故郷の山            芙
  開墾の段々畑空にまで            穂
   進学決まりゲーム没頭           明
  花大樹にっこりえ笑まう阿弥陀仏      渥
   蝶のふわりと舞い立てる午後       合
平成28年2月23日起首3月22日満尾  於豊田市福祉センター
入選  歌仙「ピアス」の巻     齋藤  桂
 夏帽子陽と戯れるピアスかな  齋藤  桂
   沖の白帆を招く玫瑰       岡部七兵衛 
 原稿は今日も早々書き上げ   山根 敬子
   縁に腰掛け碁敵を待つ     城  依子
  望の月影際やかに楠大樹   棚町 未悠
   ちちろの鳴くを真似る幼児        桂
この村に住むと決めたる暮の秋     七
    夫婦茶碗も半世紀過ぎ         敬
 妻いとしいつも天真爛漫に         依
   ハミングしつつ外郎を切る        敬
  グリフィンはふいに翔び立つ凍空へ    未
   くしゃみ一発歪みたる月         依
 若者は化石探しにいま夢中          桂
   山の奥には隠し湯のあり         未
 天国に最も近い花の宿            七
   野点の茶会うららかな午後          敬
ナオ 雁瘡も癒えて明るき友の声        依
   セーヌ河畔を歩もゆるやかに       未
 観劇の余韻にひたり貴腐ワイン       桂
   円座の猫は哲学する様           七
 緑陰に横顔すてきな客のいて          敬
   落とし穴めく禁断の恋            依
 艶話お得意という講談師            未
   老友寄れば過去よみがえり        桂
 病院の待合室の片隅に           七
   英字新聞たたまれたまま         依
  月光をあびて長距離列車去る        敬
  骨董市を漁るやや寒              未
ナウ 仁王門くぐればここも松手入れ      桂
   行き交う人はみんな論客          七
 初めてのジビエ料理に舌鼓         敬
   春を奏でるせせらぎの音          依
 花吹雪狛犬たちを覆うかに          桂
   太極拳ののどかなる影          七
平成二十七年 七月 十六日 起首 十一月二十三日 満尾
入選   歌仙 「玩具たち 」の巻  城 依子捌
 薄暑なり楽を奏でる玩具たち     城 依子
   天道虫の踊り出す頃        山根敬子
 デザインはアルファベットを組み立てて棚町未悠
   描いた夢はとても大きい      岡部七兵衛
  明月は峻嶺の影際立たせ      齋藤  桂
   そぞろに寒き城の石垣          依子
人生を背負えば遠き秋遍路        敬子
   今どこにいるあの時の女         未悠
 君の愛やっと気がつく雨の夜       七兵衛
   いつもゆく街いつも同じで           桂
  フクシマの廃炉作業のままならず      依子
   沖合い遥か船は行き交う         敬子
 月冴えて白猫歩く太鼓橋           未悠
   石焼芋で暖める指            七兵衛
 話好き陽気な人の国訛り           桂
   平均寿命ぐんと伸びそう          依子
 分水嶺包み込まれて花の雲         小町
   お玉杓子のゆらゆらと揺れ       未悠
ナオ 読みかけの太宰を開く春の土手   七兵衛
    無二の親友外国へ発ち         桂
  どこ迄もついて行きます影法師     依子
   ワインバーへと続く地下道       敬子
  半世紀ひたすら生きて悔いもあり    未悠
   耳をつんざく蝉の合唱         七兵衛
  身籠もりしおぼこ娘の麻頭巾       桂
   何だかんだで真珠婚式        依子
 ヤシの木の成長速く屋根を越え     敬子
   南の島に眠る父さん          七兵衛
  自転車を止め月光に身を委ね       依子
    二百二十日は何事もなく        桂
ナウ 豊作に粟稗雑穀よく売れて      未悠
   小さき宇宙包むひと椀         敬子
  遠来の客も混じりて楽しげに     依子
    展望台へ長い石段          桂
 咲き誇る花の中なる大鳥居     七兵衛
   園児の列に揺れる陽炎      未悠
 27年5月15日起首7月3日満尾インターネット
入選   歌仙「沖縄に」の巻  捌 出原樹音
  沖縄に雪降りにけり声上げて  出原樹音
   マングローブに冬眠のハブ    板倉合
  一斗樽かかえて父は帰るらん  間瀬芙美
   土間に転がる漬物の石     稲垣渥子
  月光をかき分けていくオートバイ 長坂節子
   ぴちぴちジーンズ馬肥ゆる牧   矢崎藍
ゥ 三つ四つとフェンスに下がる烏瓜    合
   無住寺となり久し尼寺       由川慶子
  逢引きを監視カメラが映し出し      渥
   濡れ煎餅の好きな恋人         芙
  江戸百景新大橋は夕立に         藍
   裸足で走る月は気まぐれ         芙
  金銭の授受をごまかす答弁し       芙
   三分経てば煮えるラーメン        渥
  この駅は急行電車通過駅         節
  映画ロケ地となりし故郷          渥
 花万朶琴奨菊のイナバウアー       音
  腕をパチンと叩く春の蚊          藍
ナオ 海岸に歌舞伎役者の絵凧揚げ    渥
   カミングアウトの時見計らう       慶
  高層のビルの谷間に抱く愛        芙
   寒い寒いとすり寄りし猫         節
  その先は神のみぞ知る初御籤      節
   父の声聴く風の楪            芙
  麗けし日本発の元素名          節
   一番人気浅蜊味噌汁          渥
  病院の受付にある小さき雛        節
   忘れられたる折りたたみ傘       慶
  宇宙より俯瞰している地球船       渥
   夢を育てる語り部の月          合
ナウ 宴たける右手(めて)に持ちたる猿酒  慶
  お盆休みはきょうでお終い        芙
 メール来るパリ留学の娘より        渥
  ゴッホの描く街は褐色           芙
 小生はいつも旬です花の山         合
  陽だまりの中飛ぶシャボン玉      執筆
平成二十八年一月二六日 首尾 於 豊田市福祉センター
入選  歌仙「鬼瓦」の巻     城 依子 捌
  凩に威厳を示す鬼瓦        城 依子
    急ぎ囲炉裏を開く山里      齋藤 桂
  文系が三人額寄せ合いて    八尾暁吉女
   学生寮は夢でいっぱい     岡部七兵衛
 月光につつまれている時計台       桂
   そぞろに寒き街を彷徨        依子
 亡き友を偲び紅葉に浸るらん    七兵衛
   欠伸している猫のイザベル     暁吉女
  みんなみの島でグラスを傾ける   依子
   穏やかな海熱い眼差し         桂
  うっかりと好きと囁き五十年     暁吉女
   丹精込めた松の盆栽        七兵衛
  今日もまたお出ましのよう青蛙      桂
   お化け屋敷にふんわりと月      依子
  寅さんは口笛高くぶらぶらと     七兵衛
   参詣人がカメラ構える        依子
  しだれあり今を盛りの花の山     暁吉女
   心も身をもほぐす麗日         桂
ナオ 艶やかに都踊りは佳境なり     七兵衛
   格子の家の並ぶ町筋        暁吉女
  往来を見下ろしている大鴉        桂
   ひなたぼっこの主婦等饒舌      依子
  ブランドのバックに隠す太鼓焼    七兵衛
   危険な恋は傍迷惑で        暁吉女
  劇場の奈落の底の逢瀬なる       依子
   敏腕刑事汗を拭いつ          桂
  精神科名前を変えてサロン風    暁吉女
   シャガールの絵が壁に掛けられ  依子
  横笛の音の澄み渡る月の庭    七兵衛
    人らは黙し虫も鳴き止む        桂
ナウ 修復の仏師にお茶と干し柿を  暁吉女
   吟醸酒には一家言あり       七兵衛
  異国語の飛び交っている屋形船     依子
   バルーン浮かぶ広い青空        桂
  花浴びて幼稚園児の砂遊び     七兵衛
   春満喫の尾張への旅       暁吉女
27年12月10日起首28年2月3日満尾  インターネット