平成27(2015)年・第30回国民文化祭・かごしま文芸祭「連句」大会

 文部科学大臣賞                
半歌仙 「母も子も」の巻 捌 石川 葵(愛知県)

 母も子も勝気に生きる冬日かな   石川 葵
   窓辺に飾る蝦蛄葉仙人掌    鳥海 唯 
 遊歩道珈琲の香の漂いて    佐藤ふさ子
   アマチュアバンドのライブ始まる     葵
 あごひげをくっきり照らす望の月      唯
  小枝装う蟷螂の斧             ふ
 秋の湖キャラバンサライ夢の跡      葵
   恋の遍歴重ねアラフォー         唯
 君の傍ずっと居たいとくどかれて     ふ
   阿修羅の像にひそむ激しさ       葵
 鉄棒で大技みごとエース決め        唯
   ピルケースには痛み止めあり     葵
 月の街商談終えて注ぐ麦酒         ふ
   あんばいの良い瓜漬の味        唯
 神棚に 隠すへそくり楽しみで        ふ
   手にのるほどの雛の貝桶        葵
 花びらの舞うさま媼ただ見蕩れ       唯
   開聞岳にかかる初虹           ふ
 平成26年12月9日 起首27年1月27日 満尾 文音
 入選
半歌仙「春一番」の巻  捌 佐藤ふさ子(愛知県)

 バス待ちの衿立て直す春一番 佐藤ふさ子
   黒土匂う市民農園       石川葵
 親猫に甘える仔猫目を細め    鳥海唯
   絵本に合わせ変える声いろ     ふ
 銀河から月へと向かう旅の窓      葵
   膝を抱えて新走り飲む        唯
ゥ 大峰山女人禁制冬隣         ふ
    青道心の捨てきれぬ娑婆     葵
  夢の中ふうわりよぎる紅絹の色    唯
   貂の足跡罠は見抜かれ       ふ
  おじいさんの繰り言を聞くおばあさん 唯
   座敷童は悪戯がすき         ふ
  月明り浜で始まる西瓜割        唯
   蚊取線香僕が係りで          葵
  エアポート鞄が廻るコンベアー     ふ
   物産展の幟あちこち          葵
  花の奥訪ねて花にまた出会い     唯
   佳句のうまれるのどらかな庵     葵
 平成27年2月1日首 3月6日尾  文音
入選    
半歌仙 「残雪に」 の巻      捌 碧(愛知県) 
 
  残雪に触れて戻るや風渡る       碧
   つばくろの来る空の群青       雀羅
  たんぽぽ酒色よき瓶に睡りゐて    常
 テレビ横目に長電話する          碧
  時刻表だけしか持たぬ月の宿      羅
   いびつな花梨床に転がり        常
ウ 妖怪もボスも浮かるるハロウィーン   碧
   まだ代筆の出来ぬ屋根裏       羅
  すぎはひを支へ続ける細い腕      常
    麦わら帽で隠すジェラシー      碧
  噛み砕く氷菓は迷ひ断つ如く      羅
   襲名披露幕の上がつて        常
  響きくる火の用心の路地の月      碧
   冬のブランコペンキぬりたて      羅
  真つ白なお城の見える喫茶店      常 
   地産地消でつくる定食         碧
  おばば等の結ひ頼もしき花の朝     羅
    みそひと文字の旅立ちの春      常
 平成二十七年三月十五日 起首五月四日 満尾 文音
  入選   
半歌仙 「サンバの背ナ」の巻 捌  山根敬子
                       (アメリカ)
夏の蝶サンバの背ナで揺れており 山根敬子
    人で溢れる炎天の街     岡部七兵衛
 博識の友の話はきりもなし      齋藤 桂
   やりたい仕事刀鍛冶とは     棚町未悠
 海茫々そろそろ月が昇る頃      城依子
  鮭のマリネに酒は純米          敬子
 初猟の銃声遠くはやる胸        七兵衛
   氏神様へ今日もお参り           桂
 留学生どこにでも行く人気者        未悠
  優しすぎるが玉に瑕にて        依子
 今でしょと急かれて懲りず再々婚    敬子
  幼稚園かと紛う愛の巣           桂
 満月をじろりと睨むかじけ猫      七兵衛
   蓬莱山にむかう影冴ゆ         未悠
  ジャケットのほつれ繕うこともせず   依子
   ダリの時計はやわらかく溶け      敬子
 花の下まどろむ頬に甘き風          桂
  競漕会に送る声援            未悠
 2014年7月5日起首 尾 8月14日満尾 文音
 
  
 入選
半歌仙「連翹の」の巻 両吟 (京都府・滋賀県)
 
連翹の呼び寄せてゐる真昼の陽 齋藤桂 
   紋白蝶の見えつ隠れつ  上田真而子  
 母と娘と草餅作り楽しげに        桂 
   間遠にカチリ烏鷺の争い       而
 居待月木地師の里は眠りたる      桂 
   やがて囲炉裏の欲しくなる頃    而 
 恵比寿顔思ひて新酒買ひ求め    桂 
   氏も育ちも問はず睦言        而
 老夫婦新婚旅行なぞる旅        桂
   荒き航跡薄れゆく海         〃
 施無畏の手差し伸べ観音佇ち給ふ  而
  はじめはグーとじやんけんの子ら  桂
 連勝のナイター帰り大き月       而 
   友は自慢の薩摩絣で        桂 
  ぎつくり腰魔女が一突きしたさうな  而
   身じろぎもせぬ傍らの猫      桂
  帰り花宇宙への夢ふくらませ     而 
    師弟揃ひて囲む河豚鍋      桂
平成二十七年三月二十六日起首四月八日満尾  文音
  
 入選
半歌仙「いつしかに」の巻  両吟(滋賀県京都府)

いつしかに終の栖やほととぎす 上田真而子
  新茶楽しむ穏やかな日々    齋藤  桂
 無心の射甲矢も乙矢も中るらん      而
  ぶれず迷はず先達の後          桂
 山の撓赤らみ初めて月昇る         而
  わが丈越すか紫苑一群          桂
ハロウィーン化けて正体なほ露      而
  見初めしはパリヴィーナスの前      桂
 甘えても拗ねてもぼんは知らん顔     而
  縁側の猫またもふて寝か         桂
 コンサート和服姿も久し振り         〃
  老いて矍鑠いまも晩酌           而
 凍月にしんと鎮もる峡の里          桂
  ぐつぐつ煮える冬至蒟蒻          而
 テロといふ言葉もいまは映像に       桂
  知覧を訪ね黙す他なし           而
 花盛り飛行機雲はうすれゆく        桂
  賑はひてゐる初磯の浜          執筆
 平成二十七年三月七日 起首同二十四日 満尾 文音
入選
半歌仙「冬日かな」の巻   捌 石川 葵(愛知県) 

 筆一本虚実皮膜の冬日かな        葵
   薄紅色の夢の山茶花       ひろみ
 子供等の缶けり遊びきりもなし       葵
  小さい順に分けるキャンディー      み
 SLの煙にむせる昼の月           葵
   水澄む川の流れ滔滔           み
 ここかしこカメラ据付け鴨来る      葵
   かなりイケメン地方紙の記者      み
  うはばみのあたしが惚れたあんた下戸 葵
    愛の残渣を懐に抱く           み
  お手前の茶筅の音の穏やかに      み
    隣の畑西瓜ごろごろ          葵
  月光に繭となりつつ山蚕         み
    修行の僧の皴の深さよ        葵
  願はくは争ひのない世の中に      み
    紙雛飾る緩和病棟           葵
  みちのくの友の嬉しき花便り       み
    スタッカートで春のハミング      葵
  平成26年11月23日起首 27年2月3日 満尾 文音