おととしからインターネット上で、不特定多数の人がつないできた長い長い連句の鎖。七月の十日23時18分に2万句目が付いた。
東京から「お祝いにシャンパンどうぞ」と書き込みがはいる。三重県から「海女小屋で焼いた雲丹さしいれます」そして「うちの畑の茄子胡瓜の一夜漬け」「私の新ジャガコロッケ」「お赤飯ですよー」とバーチャルの夏の宴。つまり大人のままごとであります。
そこで二万一番からは百句、妖怪の名を詠みこむように呼びかけた。すぐに、
舞の夕冷酒飲んでは鼓打つ (幽霊)道草
頬に流れる涙一筋 (鬼)ミャーママ
なんて続くわけです。『古今和歌集』には「物の名」という巻がある。定数の百韻連歌も詠みこみの「賦し物」から発生したといわれている。好きな面々は昔も今も多い。この鎖連句でも折節に鳥や魚などの名の詠みこみをすると必ず盛り上がった。でも妖名は長い単語が多く工夫がいるよ。
今朝のこと黙っていろと塞ぐ口 (言霊)はやお
起きた老母が隣の部屋に (鬼太郎)霞
ハハハ、うまいうまい!
草野球血気盛んな応援団 (吸血鬼)兎
朝シャンブローメイクば っちり (シャンブロー) ひよひよ
シャンブローはSFに出てくる宇宙魔女です。
恋に賭けよう誠心誠意 (妖精)みのり
もう四人振って私は十八歳 (ニンフ)藍
しんと月冴ゆ気温何度か (雪女)蕗
会社から家庭から、食事中会議中に妖怪の名のよぎる夏。この長い鎖連句はもちろんたった今も増殖中。
(やざきあい 作家・桜花学園大学教授)