『踊る街角』2000.11.17 No.25

horses.jpg寒くなりましたね。午前0時のお風呂あがりにおこたにもぐりこみインターネットをのぞく。去年から続く鎖連句は6千番をこえ、少し前にわび太さんが一句書き込んだところである。

6543  娘にもつまみだしたい男でき         わび太

 ふふふ。江戸時代の川柳点にありそうな。日本の父の心である。
 5分ほどすると、ニャンさんがこれに付けた。

6544  たばこの煙輪の形に吐く            ニャン

「あきらめてやるせないお父さん像です」との説明だ。わび太さんはたしか名古屋の人。ニャンさんはどこかしら。会ったことはないけれどいずれも今宵の友。私もたばこの句に付けよう。

6545  十四億円の買い物するんだと           藍

 煙の輪を目で追いながら、十四億円とイチローと、交換に海を渡るアメリカンドリームを思っている場面。
 わいわい、もう一時だから寝なくっちゃ。
 このあとは翌朝6時台から早起きさんたちが付けた。

6546   あなどるなかれ5%を              あづさ
6547 視聴率今度は誰の首が飛ぶ        ラプソディー
6548   時雨と海苔と熱いほうじ茶              風
6549 エンプティーネストに老いてゆくふたり    ミャーママ

 エンプティーネストは空っぽの巣。子供が巣立ったあとの広い家で、夫婦が時雨の庭を眺めている。食卓には海苔の香りと熱いほうじ茶。――え、何で話がどんどん変わるのかって?昔から「連歌は思ひよらぬ方へ移りもてゆくこそ興あるもの」(宗牧教書)なんです。
さすがに多忙な朝8時から9時は誰も来ず、10時すぎに長野県から句が付く。

6550  輪が広がって踊る街角             たつみ

 夫婦して老いるなら、家を出て踊りに行こう。友だちの輪をひろげようって。賛成!インターネットも活用しよう。
 この国の中世、神社の境内で立ち寄る誰彼に句を付けさせる遊びがあったらしい。高貴の人たちも笠を着けて庶民に混じり、匿名で句を付けたので「笠着連歌」という。インターネットに発生した鎖連句が、それによく似てるこそをかしけれ。

(やざきあい 作家・桜花学園大学教授)