寒くなりましたね。午前0時のお風呂あがりにおこたにもぐりこみインターネットをのぞく。去年から続く鎖連句は6千番をこえ、少し前にわび太さんが一句書き込んだところである。
6543 娘にもつまみだしたい男でき わび太
ふふふ。江戸時代の川柳点にありそうな。日本の父の心である。
5分ほどすると、ニャンさんがこれに付けた。
6544 たばこの煙輪の形に吐く ニャン
「あきらめてやるせないお父さん像です」との説明だ。わび太さんはたしか名古屋の人。ニャンさんはどこかしら。会ったことはないけれどいずれも今宵の友。私もたばこの句に付けよう。
6545 十四億円の買い物するんだと 藍
煙の輪を目で追いながら、十四億円とイチローと、交換に海を渡るアメリカンドリームを思っている場面。
わいわい、もう一時だから寝なくっちゃ。
このあとは翌朝6時台から早起きさんたちが付けた。
6546 あなどるなかれ5%を あづさ
6547 視聴率今度は誰の首が飛ぶ ラプソディー
6548 時雨と海苔と熱いほうじ茶 風
6549 エンプティーネストに老いてゆくふたり ミャーママ
エンプティーネストは空っぽの巣。子供が巣立ったあとの広い家で、夫婦が時雨の庭を眺めている。食卓には海苔の香りと熱いほうじ茶。――え、何で話がどんどん変わるのかって?昔から「連歌は思ひよらぬ方へ移りもてゆくこそ興あるもの」(宗牧教書)なんです。
さすがに多忙な朝8時から9時は誰も来ず、10時すぎに長野県から句が付く。
6550 輪が広がって踊る街角 たつみ
夫婦して老いるなら、家を出て踊りに行こう。友だちの輪をひろげようって。賛成!インターネットも活用しよう。
この国の中世、神社の境内で立ち寄る誰彼に句を付けさせる遊びがあったらしい。高貴の人たちも笠を着けて庶民に混じり、匿名で句を付けたので「笠着連歌」という。インターネットに発生した鎖連句が、それによく似てるこそをかしけれ。
(やざきあい 作家・桜花学園大学教授)