『低温やけどのような恋』1999.8.25 No.5

matikado.jpgああ、夏が行ってしまう!

891  一人旅時刻表との睨み合い          おはぎ

 この句のおはぎちゃんは学生さんとか。私がひとり旅したのも青春時代だ。貧乏だったから、駅前で安いお昼を探したっけ。

892 中華そば屋のレジがチンジャラ            藍


って付けてみた。そう。これは俳句じゃなくて、連句。連想で句をつないでゆく。当時らーめん一杯百五十円。
色の剥げた赤いテーブルで、扇風機がまわっている。暑い!――そしたら次の人がこう付けた。

893 冷蔵庫の中で寝るからラップして        あづさ


 大笑い!――句といってもおしゃべり感覚でしょ。句の意味は、すぐ前の句とつながっていればよくて、そのまた前とはもう関係ない。一句付くたびにどんどん話がかわってゆく。
 こういう遊びに私がハマったのは大学時代だ。西鶴の連句の講義中に、机の下でこそこそ友人に紙をまわしていた。で、いまはインターネット上でやっている。ハハハ、心は青春じゃ。

875  ニセモノの恋を幾度も繰り返し         おはぎ

876 下降してゆくエレベーターのキス           藍

このキスは事実か? いえ、俳句とは違って連句は想像。そこに事実が混じってるかどうかは作者に聞かないとネ。

952  お茶しません?とピアスの彼氏         小町

953 胸どきり心そわそわ気もそぞろ         はやお

 小町さんはカリフォルニア発。はやお兄さんは北海道発。何ふたりで盛り上がってんのさーとつぎを付ける

954 ぽたりと鳩の糞が直撃                 藍


 ごめん。
 春からつらなり、千番をこした連句遊び。そのときそのときの心の交流を楽しんでいるけれど、いい付け合いは参加者の心に残る。ことに恋句はね。

784  防災訓練出会いのチャンス            小町

785 気が付けば低温やけどのような恋         聖子
786  目が合うだけでセクハラにされ          彩葉

 俳句や短歌と違って軽々としているのは、流れていくから。それに「これは遊びよ。別にブンガクしてるわけじゃないの」という身軽さもあると思う。でも身軽さって、生きるセンスかもしれない。低温やけどのような恋―してるひといません?

(やざきあい作家桜花学園大学教授)