ああ、夏が行ってしまう!
891 一人旅時刻表との睨み合い おはぎ
この句のおはぎちゃんは学生さんとか。私がひとり旅したのも青春時代だ。貧乏だったから、駅前で安いお昼を探したっけ。
892 中華そば屋のレジがチンジャラ 藍
って付けてみた。そう。これは俳句じゃなくて、連句。連想で句をつないでゆく。当時らーめん一杯百五十円。
色の剥げた赤いテーブルで、扇風機がまわっている。暑い!――そしたら次の人がこう付けた。
893 冷蔵庫の中で寝るからラップして あづさ
大笑い!――句といってもおしゃべり感覚でしょ。句の意味は、すぐ前の句とつながっていればよくて、そのまた前とはもう関係ない。一句付くたびにどんどん話がかわってゆく。
こういう遊びに私がハマったのは大学時代だ。西鶴の連句の講義中に、机の下でこそこそ友人に紙をまわしていた。で、いまはインターネット上でやっている。ハハハ、心は青春じゃ。
875 ニセモノの恋を幾度も繰り返し おはぎ
876 下降してゆくエレベーターのキス 藍
このキスは事実か? いえ、俳句とは違って連句は想像。そこに事実が混じってるかどうかは作者に聞かないとネ。
952 お茶しません?とピアスの彼氏 小町
953 胸どきり心そわそわ気もそぞろ はやお
小町さんはカリフォルニア発。はやお兄さんは北海道発。何ふたりで盛り上がってんのさーとつぎを付ける
954 ぽたりと鳩の糞が直撃 藍
ごめん。
春からつらなり、千番をこした連句遊び。そのときそのときの心の交流を楽しんでいるけれど、いい付け合いは参加者の心に残る。ことに恋句はね。
784 防災訓練出会いのチャンス 小町
785 気が付けば低温やけどのような恋 聖子
786 目が合うだけでセクハラにされ 彩葉
俳句や短歌と違って軽々としているのは、流れていくから。それに「これは遊びよ。別にブンガクしてるわけじゃないの」という身軽さもあると思う。でも身軽さって、生きるセンスかもしれない。低温やけどのような恋―してるひといません?
(やざきあい作家桜花学園大学教授)