先回の澁谷道さんとのFAX連句を読んだ男性から、「女って男の性に究極の絶望をするわけですか」なんて確認され、あたふた。
4 見知らぬ男逆光に立つ 藍
5 抱かれつつ果てなき沙漠肩ごしに 道
というところだった。
「いえ、男を非難してるわけじゃないんです」
実は私はこの見知らぬ男を光源氏のようなイメージでいる。
むしろ優しい。女を女として扱うだけだ。でも、あの物語の中で、光源氏に襲われた空蝉、義理の母の藤壺。自分の寝床にすべりこまれた女たちは皆、彼を逆光を背にした見知らぬ男と感じたと思う。
いや、正式な結婚であっても。現代の恋愛結婚であっても。男女は何もかも分かり合って結ばれるわけではない。フェロモンの引力、あるいは将来の経済的安定などにひかれ、うっかり結婚という約束の橋を渡るのだが、ときに抱かれながら「こいつは誰だ。あの親しい彼じゃない。見知らぬ男」と愕然として、遠い砂漠を見ることはある。眠りこみ、日常の顔に戻り、社会にはめこまれてじき忘れてしまうけれど。
5 抱かれつつ果てなき沙漠肩ごしに 道
6 スチールデスクすべすべと冷え 藍
次の句を付けた私は、場面を現代のビルの職場に転換したつもり。女の肌が感じたデスクのすべすべだ。自分たちが熱いからなお冷たい。この場合に女は自分の意志で男を選択していると思う。ひとは快楽の頂点で果てない砂を見る。
――ごめんなさい。こういう虚構世界にはまるのが連句の業。限りなく非日常的。
(やざきあい 作家・桜花学園大学教授)