「何が起こるか未来への挑戦」 ――連句とインターネット―― 矢崎藍(ねこみの41号 2000.10/15)

99年の元旦にホームページ「矢崎藍の連句わーるど」を開きました。トップは念願の連句実況「歌仙ing」。何てったって連句の魅力は作成プロセスの動的空間です。伝統歌仙に正面から取り組む舞台を見せよう! 第一弾は山猫庵片山多迦夫とめぎつね藍の歌仙「パンドラの巻」。FAXの文面をほぼ毎日公開します。BBS(掲示板)に質問も出て刺激的な出発でした。
 この三月に第二弾。歌仙「風眩し」の巻三吟は、猫蓑庵東明雅登場! vs山猫庵に加えめぎつねも(コン、ぶるぶる)。 ほぼ一ヶ月の実況を経て校合に至り、明雅先生は「この一巻の付合のおもしろさ(付味)を、インターネットの読者が理解して下さればうれしく存じます(三月十七日)」と書いて下さいました。俳諧師として鍛えられたプロの技量、日本の伝統美意識と精神性を示しつつ拓くあたらしみの世界。未経験者の多いインターネットの連句世界に、お手本の一巻をいただいたつもりです。舞台はまだのせてありますので、ぜひご覧下さい。
 まったく予想外の展開になったのがBBSの鎖連句です。当初はホームページの読者の交流、感想発表の場でした。やがて散発する付け合いの中から三句め、四句めと続く鎖が1本。「わあ、つながってるう」と喜ぶ声にあおられ伸びてゆき、番号を付けたのが四月末で160番くらいでしたか。現代人の中で付け句をしても、やはり鎖連句が発生する? これはわくわくする実験ですよね。
 ここで付けと転じを死守すべく根本ルールを定め、投稿の際に直前二句をコピーして三句めの付け句案を出すという型を作りました。これは読者にも常に三句を鑑賞する習慣を要求します。前句との付け合いを読み、ウチコシからの転じに目を見はる。一句一句が未来を開く。この読み方を知ってもらいたい。
 でも一日百発言もある情況での連句BBS運営は大変なこと。参加者は連句歴もいろいろで質問も頻発します。長期お休みを二度とり数回の構造改革をしました。私たちがこの場で目標とすることは何か。連句のルールはもちろん、モラルも明記する。スタッフにはころも連句会の聖子さん、慶子さん、渥子さんのほか、BBS連衆から在米の雨乞小町さん、札幌の目吉さん、杏さんも参加。法律、心理学など専門家の助力も得て、いまは一応のレールにのったかなというところです。
 先日はオフ会をしました。女だと思った人が実は男であっても、話をしているとBBSの懐かしいあの人に違いない。連句縁って、性をこえるつきあいかもしれません。
 KUSARIの特色のひとつは世の中と同時点に存在することです。例えば九月二四日の朝、オリンピック女子マラソンのテレビを切りBBSを開いたら5分前に句が入っていた!

5736  時計台から響く鐘の音                 小晴
5737 シドニーの春を尚子が駆けぬける           聖子
5738   綿毛のゴールたんぽぽの笑み          小太郎

 たった今の感動を共有できて、「うまい」「やられた」しばし一騒ぎでした。
 十月には六千番になりそう。でも急いじゃだめよ。私たちが一日一日を生きるように、誰かと誰かが一句一句をていねいに付けて転じて鑑賞しあい、つながっていこうね。初心者もまじりたどたどしくてもいい。時にきらりと光る付け合い、三句があり、もし十句も玉がころがれば何よりのこと。
 ホームページには新聞のコラムも大学の「国語表現Ⅰ」「文学表現」の授業も連動しています。学生BBSは、学生が前句を出しての付け句の場になりました。目下不思議に増殖するインターネット世界。何が起こるかわからない。でも、連句はいつも未来への挑戦!
(ころも連句会・webBBSめぎつね座)