ひとつ飛ばしで上る階段 やっこ (2015/9/6~11/9)

前句   ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ      


「募集 」中日新聞2015年9月17日(木)募集
 (月の夜のこっそりのぞく冷蔵庫 真美)
かくしておいたプレミアムプリン    ひろみ
アイスに名前皆書いてあり        めぐ
 日ごろの家族のたたかいが見えるー。
監視カメラに映ってますよ       やすを
完全犯罪までの秒読み         獅狼
 (月の夜のこっそりのぞく冷蔵庫)
横に見張りのヘルスメーター       節子
検診結果は今宵不問に         マチコ
 (月の夜のこっそりのぞく冷蔵庫)
異次元への口ぽっかりと開き       座利  
 愛しの冷蔵庫への想いはいかがでしたか。楽しい句をまだ多数残しつつ発表ここまで。ありがとうございました。さて、つぎの宿題です。
  (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
この七七句に五七五句を付けてみませんか。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
すれ違いさらりとなびく君の髮      未那     
 階段の日常には時に小さなドラマも。なぜいそぐの。どこへゆくの。自分のこと、他人さまのこと。想像も自由に。時事、SFも、お笑いも。
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
新しき命授かるこの良夜          葵     
 良夜は十五夜ですね。秋の句もどうぞ。付け句は、はがきで〒460 8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛て。住所、電話番号、ペンネームのかたも本名を必ず。二十七日 (日)までにご投函を。五七五句ですよー。
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「しめきりですよ 」中日新聞2015年9月24日(木)締切
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
さあ早くポニーテールが呼んでいる   んにゃ
 宿題はもう出されましたか。
このコラムもほぼ二十六年。いまだに前句に対する人の脳の反応の多様なことに驚いています。「付け句は一句に千万なり」と古人の言葉通りかも。今回宿題の前句も、
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
うっほほほ合格告げる茶封筒      うっほ
めげないぞ入試通知の不合格    チッキショ
 どっちも付きますね。でも付け句により前句の階段を勢い付けて上ってゆく人の心はまるで違う。前句は後から付ける人しだい。俳句や川柳と異なり二句完結の付け句のおもしろさはこんなところにあります。今回もあちこちの階段での場面設定やドラマを自由に考えてみてください。思い出も。時事、自然、SFも。詩も。秋は食い気も!
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
秋空に歓声あがるスタジアム      あづさ
付け句は、はがきで〒460 8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛て。住所、電話番号、ペンネームのかたも本名を必ず。二十七 (日)までにご投函を。
なお毎年この回の募集は「全国高校生付け句コンクール」(桜花学園大学・公益財団法人豊田市文化振興財団主催)とタイアップしています。高校生のご投稿には学校名と学年も書いて。九月二十七日(日)までにご投函を。五七五句ですよー。
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「今日は肉 」中日新聞2015年10月1日(木)発表1
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
雨上がりそろそろ茸出てるかな      ぐー
 今年はたちまち秋ですね。天候不順。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
お隣のシャツも取り込むにわか雨     広艶
ベランダに濡れた万札干しといた   寺田政裕
 知りませんよっと。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
おおやった!安保法案廃案に        藍
――というわけには行かなかった九月!
民の声置き去りにした安保法     山本尚子
デモよそに安保法案まっしぐら    エンゼル
 でも、普通の人たちが現実に行動を開始したことは確かです。
曼珠沙華安保法のゆくて胸にあり     昌彦
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
次世代に託された権利使うべし    今井孝憲
18歳日本の将来にぎってる    佐々木慈美
 高校生さんたちの声です。じきに学校、家庭での顔とともに社会人の顔を持つようになる。 
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
母からのメールの件名今日は肉      美乃
 おお。ステーキか焼き肉か。
ラグビーのボールにしてねオムライス   アキ
 任して! 母さんは子の笑顔で生きてるんだ。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
告白をしたのか白いスニーカー      ひわ
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「あらよっと 」中日新聞2015年10月5日(月)発表2
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
きんとんを絞り隣へおすそ分け    あんでん
 やっほー、美味しい秋がやってきた。
初物の石焼き芋で女子会よ      伊藤紘美
注文のピリ辛手羽先冷めぬうち    かーぽん
 「ゲットしたら家族でビール!」生粋の名古屋人さんのお勧めです。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
猫缶を無視してめざしかっぱらい    ニャン
 「コラー」洋猫なのにめざしが大好きだとか。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
行列のエスカレーター追い越して    笹かま
 駅ですね。すいすい。
筋力もランクアップしレベル2に   大脇正恵
 「60歳目前。衰えぬよう日々鍛えています」
あらよっと何のこれしき更年期    ドナルド
 「目、肩、腰が悲鳴」どうぞ無理なさらずに。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
詰め込んだ公式そっと落とさずに  ハクション
学校のテスト前ってこんなでしたねえ。
nのつぎ等差数列n+2      ニュートン
 ギク、難解? いえいえ、数学は自然を表す言葉なんですって。階段nの一段上はn+1。すると「ひとつ飛ばし」はn+2というわけ。これを五七五句で付けた発想の楽しいこと。 
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
君と行く道は海へと近づいて     宮下悠人
潮風が強く吹いてる展望台      吉田敦史
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「データの海 」中日新聞2015年10月19日(月)発表3
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
目が合って駆け寄ってくる君が好き  志田朋霞
君の声聞こえて勝手に動く足    しんちゃん
 うふ、引力だもん。
「髮切った?」その一言が聞きたくて  キウイ
高校生さんたちです。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
企画書を両手に抱えて会議室       瓜也
宅配便仕事とはいえご苦労様      ドロン
 お互いせわしい世の中で。
終電車発車のベルが鳴っている     奥村晋
あんなとこ赤提灯があるさかい     とんこ
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
母がきた二階のあの本しまわなきゃ   思春期
ただいまの声聞こえない十五歳      嵯峨   
 「ついこないだまでよく話してくれた娘」いろんなときがありますよねえ。
金曜日家で待ってるゲーム達      izaya
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
スマホ経由友だちきょうだい両親も   ペチカ
 ITにかこまれて仮想空間にふみこんでいる私たち。これから現実の生活空間はどこまで浸食されてゆくのでしょう。
足もとにデータの海が氾濫し      タヌ公
 あっぷあっぷ。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
虫の声昔遊びし鐘つき堂       谷本茘枝
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授) 
「長い脚 」中日新聞2015年10月26日(月)発表4
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
行列は君と食べたいパンケーキ     しゃけ
購買のからあげパンの争奪戦      曲芸師
 高校の昼のにぎやかなこと。
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
タンタンとスタッカートを刻む足  マカロン
我こそは忍者の末裔シュタタタタ  本能寺の変
 ハハハ。学校の階段は段差が少ないのです。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
長い脚見ているだけでため息よ      めぐ
ご同輩あんな元気もあったよね   ターボン家
 ――今回の付け句はがきには、ご年配のため息が
あちこちで聞こえましたよ。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
その昔裕次郎の真似短足で      藤井幸子
 「主人のことです。もちろんコートの衿も立て両
手はポケットでした」って。
胸キュンの我らが青春ライブへGO   マチコ
 「アイドルも私たちも年を重ね、心も体も丸く
なり」―でも変わらぬ思い。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
ファンファーレ今日こそうまく吹くために   ゆーり
オーディション最後のひとり私の名  わたがし
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
流れ星一瞬といういのち見せ     藤田拓実
 今、生きている。
夏空にかすかに宇宙よりの声       牛乳
    (矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「遅刻かも 」中日新聞2015年11月2日(月)発表5
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
遠距離の彼と二ヶ月ぶりに逢う      座利
息切れの俺を追い抜く娘の香り     たんき
 みんな走る走る。朝。
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
遅刻かも分身したいこの瞬間   かぴばらさん
 アア、ダメだっ! 
ホームには電車の風だけ残ってる    愛友実
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
サッカー部夏の間は陸上部        こめ 
 一年中走るんです。
野球部の引退初の美容院      ジャビット 
 丸刈り脱出。男性は今美容院派も床屋派もいるんですね。
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
忘れ物あなたに借りたボールペン   あーりん
「またあした」この一言が嬉しくて    はる
 明日へつながるこのあたたかさ。
 (ひとつ飛ばしでのぼる階段)
百越えの日野原さんを見て奮起    羽下正一
まだまだと七十三歳上を見る     佐々木勝
 これから高齢者の智恵と発言が必要なとき。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
国民のためだと言っている総理    位田仁美
 安保法も原発再稼働もーー。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
どこまでも辺野古の海は青く澄み     蕗
   (矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)
「せっかちな 」中日新聞2015年11月9日(月)発表6
 (ひとつ飛ばしで上る階段   やっこ)
沈む日がジャンプしている窓の向こう  ふねお 
 まさにひとつ飛ばしの視界の風景ですね。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
十七歳ちょこっと背伸びしたいんだ     M
前を向け!悩むだけならノーゴール  長友佑
君の髮ふわりとまった恋心     やまにょん 
 今回は十三年目の高校生付け句コンクールの一
万五千句越えからもご紹介してきました。
来年は私も選挙に行ける夏      マンボウ
 十八歳の選挙権獲得の句はもちろん、社会を考える時事句が多かったのは今年の特色でした。
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
吐く息の二酸化炭素に罪悪感     冨田沙織
考える日本の未来平和維持     バンちゃん
 (ひとつ飛ばしで上る階段)
せっかちな現代人に追い越され     ぱんだ 
慌てずにゆっくり生きなと祖母がいう 峯村菜々瀬
 という人生先輩の声も確かに聴きとめて。
百歳から高校生まで世代、地域をこえる紙上付け句交流いかがでしたか。
 さて、この「付けてみませんか」連載は今日で終わります。二十四年間付け句で共に遊び語ってくださったすべての作者はじめ読者の皆様、ただただ、ありがとうございました。
(ひとつ飛ばしで上る階段)
めぎつねは尾を一閃の流れ星        藍
 コン。    
(矢崎藍 作家・桜花学園大学客員教授)