いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉 (2009/11/7~1/7)

前句   いそがしと師走の空に立ち出でて  芭蕉

「募集」中日新聞1月7日(木)      募集
あけましておめでとうございます。このコラム付け句も、二十一年め。五七五句と七七句で普段着の庶民史をつむいできたように思います。21世紀初頭には、 
パンドラの函あけましておめでとう 藍
なんてご挨拶しましたっけ。以後の地上の有為転変。ことに去年今年は厳しい世の中に直面しています。でも函には希望が残っていたんですよね。日はまた昇る。めげずにこつこつまいりましょ!
というわけで年初の前句はプラス思考で。
 ちょっと自慢をしてもいいかな   あづさ
この七七句に五七五句を付けてみませんか。
 (ちょっと自慢をしてもいいかな)
破裂した焼きたてケーキ ママの味   カンナ         
おいしいもの。優しい誰か。故郷の味や、懐かしい冬景色。ええ、心を支えるささやかないいことを見つけましょ。家族、友人、えへ、恋人のおのろけもドーゾ。くすくす笑い、大笑い歓迎。
 (ちょっと自慢をしてもいいかな)
モンローとスリーサイズが一緒です     葵
 付け句は夢見ていいの。体にいいわよん!
 (ちょっと自慢をしてもいいかな)
解雇者は出さず賃金分けあって       蕗
時事句もぜひ。付け句は葉書で〒460-8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛。住所、電話番号、ペンネームの方は本名も必ず。一月十六日(土)までにご投かんを。五七五句ですよー!
 (やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「今年最後の」中日新聞12月24日(木)      発表6
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
ポインセチアが店を彩る        由美江
恋を語らう喧噪の中        木村れいみ
 クリスマス商戦華やかな街。
イブの二人の時間よ止まれ    みの虫アッパ
結局今年も好きと言えずに        湖波
いいの。そのぶん未来がありますもん。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
受験料ってこんなようけか     とだちゃん
 学校を受け、検定を受け。明日へこつこつ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
郵便受けに欠礼葉書          唯いま
 ひとの生涯、思うことしばし。
行き交う人の黙々として       村木節子
今年最後の通院をする        稲垣範子
 今回は「畏れ多くも芭蕉句に付ける楽しさ」
とお便りもありました。芭蕉さんにっこり。三百年の時空は通じています。
つけ句つけ句で今年もククク(笑)    みゆき
今年も付け句を遊んでくださったたくさんのかた、読者の皆様、ありがとうございました。雇用関係の句が多かったのには胸が痛みますね。
来年は一月七日(木)に付け句募集の前句を出題しますので、お見逃しなく。人生のひとかけら、自然の営みをいとおしみつつ、来たる変化激動の世もしかと見つめましょ。ええ、ごいっしょに。
よいお正月をお迎えください。
(やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「ノルマ未達」中日新聞12月17日(木)      発表5
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
枯葉集めてひとり焼く芋        かずえ
日に背を向けて影と背比べ      相原菜摘
 やさしい冬の時間も必要です。
第九の稽古響くコミセン        ひろみ
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
尻ポケットの携帯が鳴る      岩津志乃ぶ
妻の命令背中で受ける         浅野健
「猫缶も買ってきて!」「はいはい」
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
ボーナス減の家計策練る       羽下正一
 とにかく出たことをよしとして。
ジャンボ三枚買いて戻りぬ       後高爺
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
ネイルアートは姑に見せない       ひわ
宝石みたいにできたけど、魔女っていわれそ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
散歩に本屋コーヒーで家路       ドロン
ゴルフカラオケ散歩に温泉       たんき
「年金生活それなりに」次世代以降が問題!
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
ノルマ未達のキューピットたち      徒夢 
最近矢が当たらない。日本は特に女性に。育児介護を家庭におしつけてきたツケなんです。
あした待たるるこども手当よ        直
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
鴉百羽の塒なるビル           恵紅
 (やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「十年日記」中日新聞12月10日(木)      発表4
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
落ち葉の中に探すどんぐり      塚本益美
君の住む地は初雪予報          泰枝
 同じ空の下。
薄い旋毛に北風無情         近藤スズ
 さやさや。いいのさ。温暖化は困るんだ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
寒鰤ツアー東へ西へ         ソウババ
晩酌五合焼肉たっぷり          文華
 あのね、カロリー高すぎ。
乾布摩擦のメタボが光る       武田礼子
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
長生き信じ買う十年日記         ザリ
 われら刻々生きるのみ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
今が勝負と塾向かう子ら         久美
三者懇談視線合わさず          芭尾
 親と子と教師と、志望校決定の山場のとき。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
婚活よりも就活がさき          太一
 「40歳だけど、40歳だから」―ううむ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
生きて逢いたい老いらくの恋    かぐやひめ
コートの下は実はパジャマよ       圭子
 夢か。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
飛行機雲に行く先を問う         みや
(やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「妻にはいわぬ」中日新聞12月03日(木)      発表3
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
衿かき合わせ信号は赤        三島昇子
 ぶるるっ。本格的に寒くなりましたね。
パンをくわえて駆け込み電車      無花果
ツルーと啜るホームの棊子麺       風歩
 出勤しなくっちゃ。食べなくっちゃ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
リストラされてバイトかけもち    近藤富子
友愛よりも欲しい定職        山本尚子
 新卒年配者、全世代きびしい。財産ないし。
起業しようかハローワークか       佳代
 この不確定の時代を、チャンスと捉える人もいる。未来を見すえて挑戦してみるか!
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
壁塗るように化粧入念        かよねこ
「こわー」
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
ふと見たわが手いやだ老けてる   おーちゃん
 ことに手と首筋に現れちゃうんです。
健やかなころ懐かしむ足       甲斐保子
 そう。若いころは元気が当たり前だった。ぐんぐん歩けたっけ。気付かなかったけど腿に筋肉もついていて。よく働いてくれたんだ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
妻には言わぬ行き場所もあり      眠り猫
 うっふ。
 (やざきあい作家・桜花学園大学客員教授)
「貧乏神でも」中日新聞11月26日(木)      発表2
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
薄い日ざしに実る金柑          徳子
庭の落ち葉を有機肥に積む     小久保左門

 冬の好きな生きものたち。        
犬に引かれて走る畦道         うさぎ
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
あちこちの孫インフルエンザ      とみこ
 ふにゃ。ビールスめが。社会のグローバル化に勢いづきおって。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
恋しい彼は北京転任          まりや
ウインド越しのブーツのながさ     りつこ
 あの長さだとスカートは超ミニ、腿出しだよ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
あったかお鍋で待ってるからね     ミモザ
「帰れる家があるだけで幸せ」        
貧乏神でもいないよりまし       あずき
 「置いていただければお話相手になりやすが」
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
事業仕分けの侍七人           武坊
削る・見直し・廃止・見送り      遊節子
 ばっさばさばさ。
削減されたトナカイの列        タヌ公
 あは、そりゃ、ないか。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
村のはずれに残る木守り          暁
(やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「タクシーの列 」中日新聞11月19日(木)      発表1
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
南天の赤一段と冴え        寺田やす子
顔見せにくる尉鶲あり         ひよこ
 去年とおなじにめぐる冬のなつかしさ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
黒いリムジンエアフォースワン     二太郎
オバマさん去りさて普天間は      パスタ
 盛大な拍手と笑顔と握手の裏に火花!
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
手袋咥え切符はどこだ          豊親
 せかせか。
明日も仕事だため息ひとつ        麻子
夜勤が明けた介護の仕事       木村正夫
 人手を増やせ! 時給はどんとアップを!
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
手洗いマスク新型インフル       奥村晋
ワクチン求め病院めぐり        ゆあな
 季節性のワクチンも足りないよー!
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
携帯電話忘れた不安         たんぽぽ
 「その名の通り携帯してないと心配で」少し前までなかった物に頼りきって。
文明のくれた安心と、そして新しい不安。かくてヒトはひ弱に?
ケータイもたぬ今日の自由よ      レイコ
 見えない網をたちきって、今日をゆくぞ!  
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
乗客を待つタクシーの列         利正
(やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「しめきりですよ」中日新聞11月12日(木)      締切
 (いそがしと師走の空に立ち出でて 芭蕉) 
恋の巷にひとりぼっちで         藍     
 付け句はお出しになりましたか。               
 今回出題の芭蕉の句は発句(いまでいう俳句)ではありません。歌仙(三十六句を連ねる連句)の中の付け句です。元禄元年芭蕉45歳のころ、深川の芭蕉庵に愛弟子の越人が訪れ、二人きりで巻いたこの歌仙。「深川の夜」という前書きをもつ、しみじみ懐かしい作品です。その途中に、
 医の多きこそ目ぐるほしけれ    越人
いそがしと師走の空に立ち出でて   芭蕉
ひとり世話やく寺の跡とり     越人
という続きがあるんです。当時の師走はお寺さんも忙しいし、医者も多かったような。ふたりは向き合い、付け合いながらどんな話をしてたのでしょうね。俳諧(連句)は市井の人々の目線をたいせつにした人生詩。そう、お互いこうして生きてる、生きているねえーと共に語る詩なんです。で、みなさんもどうぞお話を。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
おっと忘れた買い物のメモ       あづさ   
猫の行方を交番で聞く        不用之介   
 付け句は葉書で〒460-8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛。住所、電話番号、ペンネーム(なるべく五文字以内で)の方は本名も必ず。投句数制限なし。十一月十四日(土)までにご投かんを。今回は短句、七七句ですよー!
(やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)
「募集」中日新聞11月7日(木)      募集
 (じっと見つめる君の横顔   みさき) 
ショーケース並ぶタルトにモンブラン 高野凌輔
寝たきりの祖父の願いを叶えたい   ジョニー
動かないまだ温かい父の腕      すーさん
 今回は例年の高校付け句コンクール(桜花学園大学と豊田市主催)タイアップで、高校生の一万五千余句も参入。いかがでしたか。そうそう、
 (じっと見つめる君の横顔)
お母さん毎朝お弁当ありがとう     みんな
の同類句が頻出だったこと嬉しくご報告します。
多数御投句多謝。さて、つぎの宿題ですよー。
 いそがしと師走の空に立ち出でて  芭蕉
  ひとり世話やく寺の跡とり        越人       
という付け合いがあります。私たちも芭蕉の句に付けてみませんか。ええ、現代風景でけっこう。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
ひたすら数字見ては入力        めじろ
孫に連れられゲームセンター       ねこ
 この年末身近に眺める人の世のあれこれを。ご自分のことでも想像でも。時事句付きますねえ。
 (いそがしと師走の空に立ち出でて)
枯葉からころ駆ける校庭         藍
季語もつかって冬の自然はもちろん。恋句もぜひ。付け句は葉書で〒460-8511中日新聞文化部「付けてみませんか」係宛。住所、電話番号、ペンネームの方は本名も必ず。十一月十四日(土)までにご投かんを。七七句ですよー!
 (やざきあい 作家・桜花学園大学客員教授)