治定作品:歌仙「風眩し」の巻

初めて体験したFAXの文音、手紙や葉書によるものよりずっと迫力があって楽しかったです。
ありがとう存じました。
この一巻の付合のおもしろさ(付味)を、インターネットの読者が理解して下さればうれしく存じます。
    三月十七日                              猫蓑庵    東明雅                     

       歌 仙   「風眩し」の巻         三吟

               *句の傍線は進行中に推敲した部分。*青字傍線は巻き上がり後の校合問題句(上段40以降参照)

1     初折オモテ     発句      スニーカー風が眩しくなりにけり              明雅 初春
 ミモザたわわに学園の坂   藍 初春
第三 しゃぼん玉弾けし顔を拭ふらん 多迦夫 三春
 缶詰開けて猫に餌やる             雅
5 月 月見んと親爺に暖簾しまはせて           藍 仲秋
折端  露地に並びし電照の菊    迦 三秋
初折ウラ べったら市押すな押すなの人通り          雅 晩秋
 ハートを掏った女泥棒                 藍  
裾さばき黒いタイツがちらちらと         迦
10  醒めて悲しき老酒の酔            雅  
11 兵馬俑土に埋もれし二千年   藍
 大きな嚏まるで神鳴                  迦 三冬
13月 寒泳の終りて帰る月のころ        雅 晩冬
14  仏蘭西料理つくるグラン・マ        藍  
15 建て増しのロッジは木の香新しく   迦  
16  琴弾鳥の晴れを呼ぶ歌      雅 三春
17花 十一 祝婚の花びら永遠に降るごとし       藍 晩春
18 折端  あにいもととも女夫雛とも          迦 晩春
19 名残折オモテ 折立 隊商は落日追ひて絹の道   雅   
20  確かに丸き水の惑星   迦   
21 キー叩く無辺の自由わがものに   藍  
22  頭痛肩凝り魔女の一撃       雅   
23 老僧に大喝喰うて侍者涼し   迦 三夏
24  越前海岸くらげ名物            藍 三夏
25 潮騒の胸にとどろく午下がり   雅   
26  男いっぴき嫉妬などせず                迦   
27 死にたいと電話してゐる白桔梗          藍 初秋
28  人の世の秋夢の浮橋   雅 三秋
29月 十一 雲走り今宵の玉兎奔放に    迦 仲秋
30 折端  ビルの頂上シャベルカー居る   藍   
31 名残折ウラ 折立 オリンピック景気に市(まち)は湧きかへり   雅   
32  遺伝子実験すすむ不気味さ   迦   
33 納豆は小粒におかかときざみ葱   藍   
34  やっと叶った弥次喜多の旅         雅   
35花 大津絵の鬼が爪弾く花の下    迦 晩春
36 挙句  牛蛙鳴く土手の夕暮    藍 三春

2000年2月28日起首 3月17日満尾
* 初折表(ショオリのオモテ)略称オ   初折裏(ショオリのウラ)略称ウ 
  名残折表(ナゴリノオリのオモテ)略称ナオ 名残折裏(ナゴリノオリのウラ)略称ナウ