鈴木美奈子『魚すいすい 連句を泳ぐ』

suisui.JPG銀の鈴社 (本体1200円)
すてきな題名とすてきな装丁。連句の本はこういうおしゃれでありたい! 開けばこのお魚さんは連句の座にとびこんで、すばらしい人と才能に出会い、まさに水を得てきらめいてすいすい泳いでゆきます。眼前にひろがる世界の豊かさよ。才筆にはもちろんですが私は著者の発句がとても好きなのだなと改めて確認しました。「歩道橋魚すいすい薄暑かな」「月に歌ふライザミネリの紐育」「初旅や田子の浦とは絵のやうな」――いきいきとしてプラス思考で、明るく語りかけてくる、これが発句だ! 手にもてば軽い本ですが、 連句を始めたかたにはとても親切な連句解説もあり、連句人にはおいしい上質の作品群と、 知的なエッセイの数々。ずっしりと質量があります。あくまでも明るく楽しみつつ「「この十有余年の間の、バルカン紛争に端を発し9,11の衝撃そしてアフガンイラクの侵攻からフクシマ原発まで、私たちがかかわった世界への思いが、連句と留め書きの中に映し出されていると思います」―とあとがきにあるように、世界の激動を「私たちがかかわった世界」ととらえる著者の人間観、歴史観の確かさ。連句という一見小さなジャンルは大きな可能性を秘めていることを示しています。「これまで文化の受容者でしかなかった一般大衆が参加してくる文芸世界、連帯によって成り立つ文芸として連句は、共生の思想、育む表現活動として、歴史的、社会的存在価値を持ちはじめているのではないだろうか」賛成賛成。
 「連句はすでに文学という領域を超えたものになりつつあるのかもしれない」 ―OH! みなさん、超えている? (藍)